東大・五月祭で幸福実現党幹部が講演 「東大生ならプラズマ兵器作れる」

幸福実現党の矢内筆勝党首と釈量子女性局長が5月19日、東京大学本郷キャンパス（文京区）で講演を行った。この日は東大の学園祭「五月祭」の2日目で、講演会の主催団体は幸福の科学の東大生サークル「東大Happy Science」。これにあわせて本紙では急遽、東大内ダミーサークル「東大DailyCult（仮）」を設立した。矢内・釈両氏が「南京大虐殺はなかった」「東大生ならプラズマ兵器も作れる」などと言い放った講演会の様子を、本紙「東大DailyCult（仮）」の現役東大生特派員が報告する。

■学外からの大量動員？

特派員が本郷キャンパスに到着したのは19日の9時過ぎのこと。講演が始まるのはこの1時間後だ。キャンパス内は、ほとんどの模擬店が営業を開始し、すでに熱気にあふれている。会場の建物に向かうと、途中で早速、「矢内筆勝・釈量子講演会」と題したビラを来場者に配布する集団にでくわした。学生と見られる男女5人だ。ビラを数枚もらって、建物へ向かう。彼らは、私が見た限りで、合計で500枚を超える大量のビラを手に持って配っていたが、そんなに大量のビラを東大生や来場者に受け取ってもらえると考えていたのだろうか。

会場がまだ準備中だったため、建物の入口で時間をつぶしていると、学生ばかり男女十数名の集団がぞろぞろとやってきた。トランクを持っている人もいるし、入口に迷っていた風もあったので、学外者に間違いない。ついていくと、案の定、矢内・釈講演会の来場者であった。その後、会場前の列は40人ほどにまでなったが、互いに活発に会話を交わす様子からして、皆顔見知りのようだ。

10時すぎ、司会者のあいさつから講演会は始まった。この時点で、私が数えたところ、会場にいたのは84人。うち運営陣が約10名いたほかは、会場にいる参加者のほとんどが、互いに手を振りあったり、運営陣と活発に会話したりしており、幸福の科学の信者とみられた。一般の東大生や教団外からの参加者とはっきりわかる者は、私の他にはほとんどいない。

■昨年の講演の反省をふまえた？

実は幸福の科学は、昨年の五月祭でも、「東大HappyScience」の主催で講演会を企画しており、その際には、「宗教による日本人の常識破壊」と題して、幸福実現党の立木秀学党首（当時）が講演を行った。ところが立木氏は、講演時間の半分以上を自分の身の上話に割き、「常識破壊」は行われないまま、時間切れで強制的に終了させられた。立木氏の講演能力の程度と準備不足が知れる内容で、動員された信者の間からですら、ため息が漏れたほどであった。後日、東大生が編集するキャンパスマガジンには、立木氏が講演中に連発した間投句「まあ」をおちょくる「考察記事」も載った。その記事によると、立木氏は、28分間の講演の中で、実に281回もの「まあ」を発していたのだという。（月刊「恒河沙」2012年6月号）

今回は、講演会の会場を、去年の安田講堂から、法文1号館の大教室に移した。安田講堂が工事中で使用できないという事情もあっただろうが、一般の教室を使うことで、講演時間を十分に確保できるようになったことは大きい。今回は、矢内氏と釈氏がそれぞれ40分間講演したが、それでも時間が余るほど、余裕のある時間設定がなされていた。

矢内筆勝党首

矢内氏は、当時の植民地化された中国を訪問した高杉晋作の話題から講演を始め、

「私は、ほんの一端だが、高杉晋作の気持ちがわかる。なぜなら、私は、おそらく、誰よりも、中国の軍事的脅威を知り得る立場にある人間の一人であると感じているからです」

と「憂国の志」を披露。つづいて、釈氏は、

「東大生の皆さんにお願いしたいことがあるんです。それは“（北朝鮮のミサイルは）どうせあたらない”とか“（中国は）どうせ攻めてこない”とかいう日本の風潮があると思います。東大生がそれを言ってしまえばこの国はもう終わりだということです」

と、東大生が率先して「国防意識」を持つように訴えた。

両氏の講演は時間内に行われ、かつ、スピーチも一定の水準にはあった。教室の最後部には学生によるタイムキーパーがいて、弁士に対して残り時間を指し示していた。昨年の立木講演の失敗を重く見て、その反省を今年の講演に生かしたことがうかがえた。

■国際情勢への恐怖感を教団への信仰心に回収

とはいえ、講演内容はツッコミ所満載である。

矢内氏は、中国の軍事的脅威の説明として、

「第一列島線は、少なくとも、2010年までには、中国の領土・領空・領海にする」

と発言。「第二列島線」を2020年までに中国領化する過程で、日本の植民地化が中国によって狙われている、いまは尖閣、次は沖縄だ、などと持論を展開した。「第一列島線」「第二列島線」は、中国にとって、有事の際に制海権を確保する軍事的目標でしかないのだが…。歴史認識問題も、中国による対日思想戦の一環だとし、

「私ははっきり申し上げます。南京大虐殺はありませんでした。なかったんです。ないんです」

「30万人もの、何の罪もない民間の一般の市民を虐殺するなんてありえません。なかったんです」

と絶叫。中国の日本に対する軍事的脅威と、マスコミや一般市民の常識への不信を煽る講演内容は、そうすることで信者に切迫した恐怖感を植え付け、その恐怖感が教団と党への信仰心を強化するために用いられているのではないかと、私に思わせるものだった。

釈量子女性局長「プラズマ兵器！」

釈氏の講演はもう少しマイルドだったが、やはり

「いままで常識だと思われて、マスコミでは当たり前だと思われていた（ことの）その奥に、実は、私たちが知らなければいけない本当のことがあるんだと。その証明をするのが、今日ここに集まったみなさん若い世代の仕事でもあるんです」

と、幸福の科学流の世界観を披露したほか、日本が強制的に朝鮮人を慰安婦としたことはないと主張し、矢内氏の発言に呼応した。肝心の東大生が会場にほとんどいない中で、釈氏は、東大生への期待を繰り返し表明し、講演の最後では

「ぜひ、（東大生には）志士としてこの国を救っていただきたい。東大の皆さんであれば、たとえば、中国の核、北朝鮮の核を無力化できる、たとえば、プラズマ兵器なんて東大生なら作れるはず。サイバー技術も作れるはず」

などと訴えていた。また、「プラズマ兵器」という単語が出てきても、会場からの特別な反応が一切なかったことが、講演会場の特殊な空気を感じさせた。


なお、東大の五月祭では、外部団体の過度な宣伝が禁止されているほか、個人情報の収集には許可が必要だ。今回は、幸福の科学や幸福実現党の宣伝は相当に抑えられていたほか、個人情報収集の許可が得られなかったのか、アンケートも無記名・任意であった。東大での企画の継続を意識して、実行委員会の指示に素直に従っている模様だ。東大生が２人いさえすれば、あとは外部から要員を引き入れて企画を出すことが可能なのが、東大五月祭の実態だ。幸福の科学学園から東大に２人が入学したこともあり、今後数年は、「東大Happy Science」による企画出展は続くだろう。【特派員・大東隆作】

■元東大生の元オウム幹部「同じ轍を踏まないで」

東京大学は、オウム真理教の教祖・麻原彰晃が講演したことがあり、複数の信者や幹部を輩出している。そのひとりが野田成人氏だ。東大在学中にオウムに入信し、後に後継団体である「アレフ」の代表を務めたこともある。しかも東大で物理学科だった野田氏は、オウム真理教で兵器開発にも従事した。

そこで野田氏に、釈氏が口走った「プラズマ兵器」について解説してもらった。

「オウム真理教も、まさにプラズマ兵器の開発を試みていました。元ネタは、米軍がエリア51でUFOを開発しているというのは実はプラズマ兵器の開発なのだという設定の、飛鳥昭雄のマンガでした。それによると、マイクロ波を3方向から1点に集中照射することでプラズマを発射できるということだったので、オウムではマイクロ波の発生装置を開発しようとした。教団内では1メガワットくらいの出力のマイクロ波発生装置が必要だと言われていたのですが、そんな高出力の装置を作ることはできず、結局、プラズマ兵器は開発されないまま終わりました。ちなみに教団では、1キロワットくらいの出力でマイクロ波を発生させる市販品を購入していて、それは教団が死なせた人の遺体を秘密裏に焼却する焼却炉として使っていました。要するに巨大電子レンジです」

最終的にオウム真理教は、プラズマ兵器ではなく化学兵器「サリン」の製造に成功し、松本・地下鉄両サリン事件という無差別テロを行った。教団が武装化路線を本格化させたのは、1990年の衆議院議員選挙で教祖と弟子が出馬し全敗したことがきっかけだとする説もある。

そのオウム真理教への強制捜査と麻原逮捕から18年。今度は、選挙で全戦全敗の幸福実現党幹部が東大生に「プラズマ兵器」を作れと煽っている。

「気持ちはわかります。幸福実現党が選挙活動を頑張っているのに議席を取れず、もう武力しかないのもわかる。しかし、すでに結果は出ているわけです。オウム真理教と同じ轍は踏まないで欲しい」（野田氏）

2015年、幸福の科学は千葉県長生村に大学を設立する計画で、理工系学部の設置も予定。しかも関係者が信者たちに「UFOの技術を研究する」などと口走っている。まさか大学で兵器開発をするとは思えないが、かつてはオウム真理教についても、人々はまさかあれほどの大事件を起こすとまでは思っていなかった。【本紙編集部】