広瀬死刑囚は、1995年にオウム真理教が起こした地下鉄サリン事件に実行犯として関わったほか、自動小銃密造事件に関与。教団内では「科学技術省次官」の地位にありました。2009年に死刑が確定しています。
手記は、広瀬死刑囚から手記の公開を託されたA氏を通じて本紙に提供されています。昨年11月の時点では、
序章
第2章第2節
第2章第4節
第3章第1節
第3章第2節
の計39ページ分ですが、その後、合計55ページとなっています。追加されたのは、
第3章第1節(ページ追加)
第4章第1節(新規)
このうち、追加された第3章第1節には、オウム真理教の宗教法人認可をめぐって都庁の担当者を「吊るし上げ」たり抗議活動を行った時の様子が記されています。
【広瀬健一氏の手記 第3章第1節】
(略)
ところが、オウムは宗教法人格の条件を満たしていたにもかかわらず、その認証が遅延していたのです。教団では、息子の出家に反対する親が代議士に依頼し、東京都に対して圧力をかけていると言われていました。この件についての怒りが、麻原が行動を先鋭化した原動力になったかもしれません。
(略)
私どもが取り囲む中で、麻原は元検事の出家者に都庁の担当課長の尋問を指示し、この課長を吊し上げにしました。気の毒な課長は、元検事の技に嵌められて失言を録音され、困惑の表情を浮かべていました。その後私どもは、静粛な都庁庁舎内でヴァジラ・ベルの音を響かせながら、宗教法人の認証を求めて大声でシュプレヒコールを繰り返しました。
(略)
今回新たに追加された第4章第1節は、1990年4月に広瀬死刑囚が何人かの出家者と共に麻原から培養中のボツリヌス菌の見張りを指示されたエピソード等に触れています。
【広瀬健一氏の手記 第4章第1節】
(略)
この一連の出来事が示す解は、一点に収束しました。
「上九(一色村)で作っているものを気球に載せ、世界中に撒くのではないですか。そうすると、撒かれたところにいる生物は、生命の危機に瀕します。今度の石垣島でのセミナーでは、イニシエーションとして、その菌に対する抗体が与えられるのではないですか」
現実離れした回答が唐突になされたことについて、奇異に思われるかもしれません。しかしそれが、オウムというコミュニティーでした。閉鎖的環境においてヴァジラヤーナの救済が説かれ続けたために、教団では規範意識が一般社会のそれとは乖離し、その救済──人々の生命を絶ち「ポア」すること──の実行は当然のこととして受けたられていたのです。
果たして麻原は、
「そうか、分かっていたのか」
と、感慨深げに応じました。
(略)
広瀬死刑囚は手記で、「オウムの非常識かつ非現実的な教え」をなぜ信者たちが信じたのかについて、それでもその教えが「信徒の日常的な経験と密接に結びついていた」と説明しています。非信徒と「エネルギー交換」をしたところ、非信徒のカルマが自分に移ってきたという体験をしたというのです。また、この「エネルギー交換」は教祖・麻原彰晃(松本智津夫死刑囚)と信者との間でも行われ、「ヴァジラヤーナの救済の教義」の一環として、救済と称して人の命を奪う「ポア」の教義にリアリティを感じていたとしています。
【広瀬健一氏の手記 第4章第1節】
(略)
ここで麻原が説いている幻覚的体験は、前述のように信徒においても日常茶飯事でした。たとえば私は、戦争を積極的に肯定したあるカルトの会員を非難したところ、尾底骨のあたりの管が詰まって心身の不調を招きました。また逆に、麻原から叱責されたときは、麻原との間にエネルギー交換が起き、自身のカルマが浄化されるのを感じました。
ですから一般的見地からは荒唐無稽な麻原のこの説法も、信徒にとっては自身の経験と合致しており、道理にかなったものとして映ったのです。
また私がヴァジラヤーナの救済の教えを受容した背景には、この世の生命よりも、よい転生を重視するオウムの価値観に同化していたことがあるでしょう。私はいわゆる幽体離脱などを経験したので、私たちの本質は肉体ではなく、肉体が滅んでも魂は転生を続けるという教義の世界で生きていたのです。
広瀬死刑囚は、信者たちが麻原の説法に説得力を見出した根拠となる神秘体験は、それ自体がオウム真理教での修行や生活の中で生まれたものと説明しています。本紙で掲載したフォトジャーナリスト・藤田庄市氏の「【まいんど】オウム・杉本繁郎受刑者(2)」でも、杉本受刑者の「麻原との霊的結合の確信」に触れられています。
部外者として冷静な状態で考えれば、信じる「根拠」自体が閉鎖的な環境で生み出されるというマッチポンプ的な信仰プロセス自体に疑問を抱いて、「そんなものを信じるのがおかしい」と考えるかもしれません。
しかし、閉鎖的な環境は、「根拠」自体が閉鎖的環境の産物であることに疑問を抱くことをも困難にします。その点を考慮に入れながら、こうした手記に記された信者の状況を想像すると、オウム真理教を単なる「イカレた集団」と片付けるのとは違った見方ができるのではないかと思います。
【広瀬健一死刑囚の手記】
序章
第2章第2節
第2章第4節
第3章第1節
第3章第2節
第4章第1節
上記全文
【関連記事】
オウム裁判終結、オウム家族の会などが「麻原以外の死刑回避」求める
自分のならともかく、他人の文章の引用は正確にやって貰いたい。全体の信用に関わりますよ。広瀬健一氏の手記 第4章第1節「声明の危機」→「生命の危機」
返信削除ご指摘ありがとうございます。修正しました。
返信削除ト長調車内って凄い誤字だなと逆に感心してしまいました。今後も素敵な文章を期待しています。
返信削除車で監禁して、Gのメジャー和音を鳴らす「なんたらベル」を聞かせる拷問だと、本気で思いました。
返信削除「ト長調車内」
とんでもない音響兵器を生み出してしまいましたことを深くお詫びいたします……
返信削除アレフ新規信者、北海道で突出…全国の36%
返信削除読売新聞 2月4日(土)8時59分配信
オウム真理教の主流派団体「Aleph(アレフ)」の昨年の新規信者が、北海道だけで全国の3分の1超を占めていることが分かった。
年末年始には最高幹部が道内に滞在していたことも確認されており、公安当局では、道内が信者獲得の主な舞台の一つになっているとみて警戒を強めている。
アレフが公安調査庁に対して行った報告によると、信者数は2011年11月時点で約1070人となっており、「ひかりの輪」(上祐史浩代表)が分派した07年以降、初めて1000人を超えた。同庁では都道府県別の信者数を公表していないが、明らかにしている昨年の新規信者数は全国205人で、このうち北海道が約36%の75人と最多。同庁によると、アレフの現金や預貯金などの流動資産は約4億円に上るという。
関係者によると、アレフの道内唯一の施設である札幌道場(札幌市豊平区)に敏腕の男性勧誘員がいることが、道内で新規信者が多くなっている主因とみられている。男性は40歳代で、道内各地で催すヨガ教室などで勧誘活動を行っている。
藤倉、エイト北海道に行って実態調査だ!
違法勧誘しているかもだぞ。
本来、宗教とは、人間の精神的な支えであり、人間を幸福にする為に存在する。しかし、世界の歴史を見ても、キリスト教やイスラム教の国々で宗教絡みの戦争やテロは数多く起きて来た。日本でも、歴史上仏教の様々な宗派の間で流血の争いはあった。ただ、オウム事件のような異常で恐ろしい無差別テロ事件を見ると、これはとても『宗教』とは思えないし、人間や社会を不幸にするだけの犯罪テロ集団でしかない。
返信削除精神等綺麗事だ。宗教差別したいだけだろ。だってそれが民意だから。民意が死刑にしろとわめきたてている。人間皆テロリストなんです。利己主義で愚劣だし。死刑にするんなら全日本国民の目前で死刑にすればいい。健全で美しい死刑だ。人を大量に殺せば死刑でいい!だが、暗がりの中でひそひそと、まるで麻薬密売グループの取引の様に殺すから嫌いなんだ。だから犯罪者は死刑を恐れないんです!!こんなゴミ屑のやり方は嫌いなんだ。総理だって非行してるんだ。政府が隠蔽してる事実を白日に!
返信削除>2014年3月10日 19:22
削除決して個人の死刑に対する考えを否定しませんが、政府の隠蔽とは何ですか?
それより法華経を信じ南無妙法蓮華経と唱えましょう
こちらの記事のリンクが、リンク切れになってしまったのか閲覧することができなくなっています。(404エラーになっています。)
返信削除もしお手元に手記の画像がありましたら、リンクを貼り直していただけますと幸いです。
既に広瀬さんの手記は書籍となって発売されていますが、直筆のものは現在こちらのサイトでしか閲覧できない状態ですので、お手数ですが宜しくお願いします。