〈社説〉メディアの良識はどこへ？日刊サイゾーが悪質な2世記事を配信

日刊サイゾー（2018.6.12配信）

　W杯開幕直前、日本代表チームに関する悪質な報道が行われていた。6月12日付けの日刊サイゾーが『W杯直前！　サッカー西野ジャパンに“日の丸を背負う統一教会ファミリー”が……』と題した記事を配信したのだ。

　その後の日本代表の激闘に水を差すこの悪質な2世記事について、本紙の見解を記す。

◆日刊サイゾーの悪質2世記事

　ロシアワールドカップで決勝トーナメントに進み、国の誇りを賭け奮闘したサッカー日本代表チーム。ラウンド16でベルギー代表に惜敗し初のベスト8進出を目前にロシアを去ることとなったが、FIFAランキング3位の優勝候補チームをあと一歩まで追い詰めた戦いぶりは国内外で称賛を浴びている。

　本紙が問題視するサイゾーの当該記事は「サッカーワールドカップの日本代表選手の中に、統一教会・家庭連合の2世がいる」との内容だ。その取り上げ方がひどい。

【日刊サイゾー　2018年6月12日】

『W杯直前！　サッカー西野ジャパンに“日の丸を背負う統一教会ファミリー”が……』（抜粋）

　今週末に開幕を迎えるサッカーW杯ロシア大会。日本代表メンバーに選ばれた23名は、みな周囲の期待を一心に背負って戦うことになるが、今回の代表メンバーには、少々変わったバックグラウンドを持つ選手がいる。両親が統一教会の信者なのだ。（中略）

A選手と同じ市で生まれ育ったジャーナリストが語る。

「A選手の両親が統一教会の信者であることは、地元でもあまり知られていません。しかし、　かつてA選手の家を訪れたことがある男性に話を聞くと、自宅には文鮮明氏の写真が飾られていたそうです。両親は統一教会を通じて結婚したようで、両親とも韓国出身ではありませんが、子どもの名前の漢字の読みには、韓国系の読み方が当てられています。ただ、A選手からインタビューなどで統一教会に関する発言が出てきたことはありません」

　本人や両親がどんな宗教を信仰していようと、選手としての資質とはまったく関係はないが、かつては日本代表メンバーの選出に関して、宗教が問題視されたというウワサが飛び交ったのは事実だ。（中略）

　もっとも、今の日本代表は“神頼み”が必要なほどバラバラの状態。もはや頼る神など選んでいられない？

全体を通して伝聞や推測、思い込みで構成された低レベルな記事だが、特に問題なのは赤字にして下線を付けた箇所だ。

　宗教2世についてスキャンダラスな視点でしか捉えていない記述ばかりだ。選手の個人名こそ記載していないが「名前の漢字の読みには、韓国系の読み方が当てられています」と、この選手が誰であるかが容易に特定できる書き方をしているほか、本人への取材もせず、興味本位の視点で取り上げている。
　どんな教団の2世に生まれようとも、そのこと自体を以って差別を受けたり不利益な扱いをされることは決してあってはならないことだ。

◆2世を報道被害から守れ
　当該選手は、これまで一度も当該教団の宣伝等に加担するような発言をしていない。同教団の信者で“広告塔”と指摘された桜田淳子のように信者を対象とした内部向けの講演などもしておらず、教団側も「2世である◯◯選手を応援しましょう！」などと一切発信していない。教団の“広告塔”ではないのだ。この選手と教団を関連付けて報じることには、何の社会的意義も見出せない。
　また、この記事には、選手本人だけでなく両親、兄弟、妻子に対して配慮した形跡は全く見られない。 こういうスタンスで書かれた記事が、世間の2世への偏見に加担していると言っても過言ではない。2世問題の本質を理解できていたら、こんな記事は書けないし配信できないはずだ。仮に当該選手の両親が教団への信仰に由来した反社会行為などを行っていたとしたら、そのこと批判することは百歩譲って

　当該選手は教団とは距離を置きつつも、両親との関係は良好と聞いている。 この選手が慎重に築いてきたもの、護ってきたものを、興味本位で暴いたことは許しがたい。

　W杯開幕前に、サッカー代表に関することなら何でもいいと無節操に取り上げたサイゾー。個人のプライバシーを徒に暴露することは、当該選手本人はもとより、家族にとって不利益以外なにももたらさない。

　こういう面白半分のスキャンダラスな視点の記事が、選手本人だけでなくどれだけ多くの2世を傷つけるかを考えるべきだ。様々な葛藤を抱える2世が置かれている状況、当該選手がこれまでに辿ってきた過程に少しでも思いを馳せることができていたら、こういうふざけた記事は書けないはずである。

　日刊サイゾーのサイトTOPには「日刊サイゾー　マスコミの裏を読む！体制の裏をかく！」と表示してあるが、この記事のどこが「マスコミの裏」を読み、「体制の裏」をかいているのか。

◆韓国でも同様に・・・　
　また、同じく国を代表して戦ったサッカー韓国代表選手の中に「統一教会系大学である鮮文大学出身者がいる」として韓国国内で話題になっているほか、教団サイトや同大学サイトでこの選手のW杯での活躍を紹介している。日本国内でもそのことに言及したブログが見られる。
　韓国の鮮文大学は、その学校名が示すように統一教会の文鮮明教祖（2012年死去）が創設したもので、学生は同教団の2世が大部分だが教団とは無関係な学生も在籍している。日本でいう創価大学のような位置づけである。
　しかし、これもまた当該選手が同教団の2世であるかどうかなど、どうでもよいことだ。

◆メディアの責任と良識が問われている
　2世問題を含め、本人になんら責のない出自に関する事柄について、メディアは無責任に軽々しく報じるべきではない。
　これは1世についても同様であり、どんな教団であれ、その“信仰”自体を問題視すべきではない。教義や教団の体制に由来する反社会的行為や人権侵害があれば、そこを追及すればよいだけの話だ。少なくとも本紙はそのスタンスで報じている。

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