麻疹集団感染の宗教団体、ワクチン否定冊子の販売を継続＝県の指導に逆行

三重県津市にある救世神教本部

今年1月に麻疹（はしか）の集団感染が発覚しし、三重県ほか近隣各県に感染を拡大させた宗教団体「ミロクコミュニティ救世神教」（宗教法人救世神教）が、今月にも信者たちの集会を再開する。4月29日以降、子供向けイベントや信者以外も参加できる運動会などが予定されている。ところが、津市にある教団本部の施設内で、いまだにワクチンを含めた医療を否定する内容の冊子が販売されていることが本紙の取材でわかった。県からの指導に逆行するもので、「今後は保健所の指導に従う」とする教団の声明文の信用性が疑われる。

救世神教が昨年12月に開催した10代から20代の若い信者を中心とした研修会で、麻疹の集団感染が発生。今年1月に発症が確認され、教団外部への感染も確認される騒ぎとなった。三重県では3月22日時点で、救世神教と直接の接触がなかった患者も含め53人の感染が確認されており、過去10年で最悪の感染拡大となった。和歌山、愛知、静岡各県でも同教団に起因する感染者が確認された。

当初、県に対して団体名の公表を拒んでいた同教団は1月22日、ウェブサイトに謝罪文を掲載し、自らが集団感染の発生源であることを公表。その中で、「祭典、研修会等の集会については、当面中止する」とした。

3月に入って県薬務感染症対策課は、少なくとも同教団における集団感染については事実上の終息宣言を行った。

〈本年１月には、ミロクコミュニティ救世神教が自施設で開催した研修会の参加者等から複数の麻しん患者が確認されましたが、２月１日に患者が報告された後、４週間を超えて新たな患者の発生はなく、今後、当該集団から患者が発生する可能性は低いと考えられます〉（三重県ウェブサイト）


これを受けて教団では4月から信者の集会等の行事を再開する。三重県津市にある救世神教本部内には、信者以外も参加できる4月29日「春の大運動会」、0歳から小学6年生の信者を対象とした5月5日「キッズフェスティバル」の案内が掲示されている。関係者によると、これ以前にも信者向けの研修会等が行われる予定だという。

救世神教はウェブサイトに掲載した謝罪声明で〈感染リスクの高い疾病のワクチン接種について、今後は保健所の指導に従い、皆様にご心配をおかけしないよう対処してまいります〉としている。具体的にどのような対処を行う予定なのかについて本紙は教団に取材を申し入れたが、何度連絡しても「担当者不在」。折返しの連絡を求めても締め切りまでに連絡はなく、教団は事実上、取材申し入れを無視した。

三重県薬務感染症対策課は本紙の取材に対して、救世神教側に「予防接種を受けるように関係者に周知徹底するように」と指導を行ったと説明する。麻疹に限定せず、ワクチン全般について指導する内容だ。

ところが救世神教が現在もなお、津市内の教団本部にある売店でワクチンを否定する内容の冊子を販売していることが本紙の取材でわかった。教義等に基づいて健康な生活のための考え方や情報をまとめた『いきいきライフ　信仰・食・運動が健康の基』（500円）と題する冊子だ。農薬その他化学物質の排除や菜食を勧める内容で、砂糖や牛乳も害毒であるとする。また〈医薬は全て毒物〉と題する章には、このような言葉が並ぶ。

〈薬が増えただけ病気は増える〉

〈医薬の使用量が増えただけ不健康に、減っただけ健康になっていく〉

〈いきいきとした子育てを〉と題する項目では、〈麻疹や百日咳は、母胎中で栄養分と共に吸収した古血や汚物の浄化であり、大いに喜ぶべきことである〉と書かれている。ワクチン接種をしてはならないとする直接的な文言はないが、子供が発症する（つまり親が子供にワクチンを接種させない）ことを推奨する内容だ。

売店ではこの冊子の別冊2種類も販売されている。そのうち『いきいきライフ補足編2　大浄化に備えて　─原発事故・新型インフルエンザ対策─』（100円）には、以下のような記述がある。

〈インフルエンザ・ワクチンは、ほとんど効かない〉

〈インフルエンザ・ワクチンは、感染を防げない〉

〈インフルエンザの最強の予防法は、インフルエンザにかかること！〉

〈インフルエンザ・ワクチンは、毒薬に次ぐ強い毒性を持つ劇薬〉

〈子供がかぜをひくのは、当たり前。軽い病気をしながら、子供は免疫力を体に蓄え、成長していく。インフルエンザなんか、寝ていれば治る〉

救世神教は世界救世教の分派で、世界救世教教祖・岡田茂吉が説いた「反医療」の教えを信奉し、医療ではなく手かざし（浄霊）によって病気を治せるとしている。ワクチンのみをことさらに否定しているのではなく、医療全般を否定する教義の一環としてワクチンも否定している。これが今回の麻疹集団感染につながった。

冊子の内容から、救世神教が県の指導に反して現在もなお同様の教義を信者に対して説いていることがわかる。

カルトの広報活動に詳しいジャーナリストの藤倉善郎氏は、こう語る。

「保健所の指導に従うと表明しておきながら実際には逆行する行動をとっているのだから、救世神教はウソつき。またメディアの取材申し入れを無視し、従来は信者以外も入ることができた教団本部の売店に『マスコミ関係の取材は固くお断りします』との張り紙を掲示するようになった。県の指導に従うのではなく、ウソをついた上で、ウソがバレないように頑張るというのが救世神教の対応姿勢だ。教義を振りかざして傍若無人に振る舞うたぐいのカルトと違い、欺瞞的な広報戦略に長けたカルトだ。

信者の子供に医療を受けさせないのは児童虐待であり、麻疹に限らずいつ死者が出てもおかしくない。今回の麻疹感染のように、今後も教団内で発生する感染症が教団外部への脅威となる可能性がある。地域や行政、地元メディアはいままで以上に警戒すべきだろう」

教団本部にある売店

同教団ではEM菌（※）を用いた放射能対策や健康法、「自然農法」も推奨しており、売店内にはEM菌を使って作られたドリンク、衣類、石鹸、シャンプーなど多数のEM商品が販売されている。5月中旬頃には、EM菌を用いて栽培しているという教団本部敷地内のバラ園が見頃を迎える。

※EM菌
株式会社EM研究機構の比嘉照夫代表が開発したとされる、酵母、乳酸菌、光合成細菌を主とした細菌の混合体で「Effective Microorganisms（有用微生物群）」の略。もともと農業用の土壌改良資材として開発され、世界救世教がその普及に関わってきた。推進団体は水質浄化に効果があるとして地方行政等を巻き込んでEM菌を河川や海、学校のプールに投入する活動を全国で展開しているが、一部自治体では効果を否定する調査結果を出している。比嘉氏は福島第一原子力発電所事故以降、EM菌で放射能を消せる等の効能も強くアピールするようになった。世界救世教の分派である救世神教でも、EM菌を「自然農法」に利用するだけではなく、放射能対策にも有用である等の主張を信者に説いている。

（取材＝本紙・医療カルト取材班）

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