■“疑似科学”でも“医療類似行為”でもなく
日本薬剤師会は26日に発表した声明で、ホメオパシーについて“医療類似行為”という言葉を使っています。これに対して本紙ではホメオパシーを“疑似医療”と呼んでいます。
よりメジャーな言葉を使うなら、ホメオパシーは“疑似科学”あるいは“似非科学”と呼ばれるジャンルに含まれるものだと思います。しかし医療などの現場で実践的に用いられているものは、単なる知識としての“疑似科学”よりはるかに現実的な害悪をはらんでいます。
そう考えると、“疑似科学”より“医療類似行為”の方が比較的、適切な言葉と思えます。
しかしホメオパシーは、医療としての効果が実際には期待できないにもかかわらず、期待できるかのような説明を行いながら人々の間に浸透してきました。つまり、「ただ単に医療に似たもの」ではなく、「医療であるかのように誤信させるまがいもの」と評価するのが妥当でしょう。つまり類似しているのではなく、疑似あるいは似非です。
科学ではなく医療の問題であり、類似ではなく疑似であるという点を明確にするためにも、ホメオパシーのような手法は“疑似医療”と呼ぶのが最もふさわしいと思います(“似非医療”でもいいかもしれませんが、“疑似”より敵意むき出し感が強そうなので)。
■宗教にも“疑似医療”がある
各ジャンルの位置関係はこんな感じかな |
宗教的な団体での“疑似医療”による死亡例は、いくつもあります。国内における過去約10年の有名事件だけでも、ライフスペース(SPGF)での「ミイラ事件」(1999年)、次世紀ファーム研究所(真光元神社)での糖尿病の少女の死亡事件(2005年)、新健康協会での乳児死亡事件(2010年)などが挙げられます。
■病気を治したいのに医療を拒否する
ホメオパシーについては、レメディそのものが有害だとされているわけではありません。ホメオパシーを信奉する人が本来必要な医療を拒否したり、あるいは子どもに必要な医療を受けさせない事例(医療ネグレクト)がある点が、最大の問題だと言えます(asahi.com apital 2010年8月5日<5600万円の賠償求める 山口地裁 ホメオパシー絡みトラブル>・同8月11日<代替療法ホメオパシー利用者、複数死亡例 通常医療拒む>参照)。
前述の3例も同様で、ライフスペースでは、入院中の男性を病院から連れ出し、教祖が頭を叩く「シャクティパット」で病気を治そうとして死に至らしめました。次世紀ファーム研究所では、「真光元」という名の健康食品(自称)や教祖の能力(自称)で病気を治せるかのような説明をし、糖尿病の少女にインスリン注射をさせず病院にも搬送しなかったため、亡くなってしまいました。新健康協会では、同協会の教義に従って手かざしで子どものアトピー性皮膚炎を治せると信じた両親が、生後7カ月の子どもを病院に連れて行かず、亡くしてしまいました。
医療拒否や医療ネグレクトというと、エホバの証人の輸血拒否問題を連想する人が多いかもしれません。しかしホメオパシーや上記3事例の問題構造は、輸血拒否問題と少し違います。
エホバの証人の輸血拒否問題は、大雑把に言えば、エホバ流の聖書解釈によって輸血を好ましくないものと捉えるという教義があり、これを厳密に守ろうとするが故に起こってしまう問題です。輸血拒否によって病気が治るという考えによるものではありません。
一方、ホメオパシーでの死亡事例や上記の3事例では、それぞれの手法や教義によって病気が治ると信じる(信じさせられる)ことによって、医療拒否や医療ネグレクトが起こり命が失われたという構図です。これが、“疑似医療”の厄介な点です。
■医療現場からの排除だけでは解決しない
いまのところ、各医療関係団体の声明は、医療従事者や助産師の現場からホメオパシーを排除することを主眼に置いた内容のように見えます。しかし実際に医療現場から疑似医療を排除することができたとしても、医療従事者以外の人間が、さも効果があるかのようにうたって病気治しを行えてしまう環境が残されていれば、疑似医療による被害は決してなくなりません。
実際には効果を期待できないのに確実な効果を期待させるような広告・宣伝・勧誘、そういった説明に基づいて実際に治療を行う行為全てを、もっと明確に規制・処罰する必要があると思います。医師法や薬事法など既存の法律でこれにあたるものはありますが、疑似医療がこれだけのざばっている現状を考えれば、既存の法律の条文か運用方法のどちらかに欠陥があることは明らかでしょう。
医療を装うことなく、民間療法や宗教的な病気治しであることを明確にしているものについては、それ自体が有害な行為でない限り否定する必要はありません。民間療法や宗教には「文化・慣習」として尊重すべき側面もあるし、通常の医療だけではどうにもならない場面での精神的な補完機能もあります。ただし、それを信じさせることで通常の医療の拒否につながる場合については、明確なペナルティを伴った注意義務を課すべきではないでしょうか。
そのための具体的な仕組み作りには、科学者や医療関係者に加えて、一般市民、法律家、メディア、行政も含めた広範囲な方面からの議論が必要だと思います。そしてこれらの議論の前提を明確にする上で、“疑似医療”という概念や問題意識が不可欠です。
健康になろうとした結果、不健康になる。生きたい・生かせたいと思った結果、命を失う。こんな悲劇は、医療の現場であろうが宗教の現場であろうが、何としてでも防ぐべきです。
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自分が行っているものが疑似の医療だなんて微塵も思わずに、世のため人のためになると本気で思っている施術(?)者もいるようです。グーグルで「ホメオパス」でブログ検索すればいろいろでてきます。今回の一連のバッシングについても、ホメオパシー発展のための通過儀礼と信じ込まされているケースもあるようです。ことの深刻さを覚えるとともに、気の毒な気がしてなりません。
返信削除まっとうな医療や医療者ほど、医療に限界があることを自覚しています。だからこそ、今の医療がまだまだ不完全であるからこそ、未知の病態を解明したり、新たな治療法を模索するなど弛みない努力が続けられています。
アレルギーでも悪性腫瘍でも精神疾患でも、砂糖玉の経口摂取で万事OKという医療。しかも人間だけではなくペットにも可。どう好意的に解釈すれば医療と呼べるのでしょうか。
西洋医学においては、鍼・灸も疑似科学の扱い。ホメオパシーを叩くあまり、鍼灸にまで飛び火しませんように。
返信削除> アレルギーでも悪性腫瘍でも精神疾患でも、砂糖玉の経口摂取で
返信削除> 万事OKという医療。しかも人間だけではなくペットにも可。どう
> 好意的に解釈すれば医療と呼べるのでしょうか。
数年前、某夕刊紙でトンデモペット治療のレポートを書いたことがあるんですが、ホメオパシーはもちろん、オーリングとか遠隔ヒーリングとか、もうむちゃくちゃでしたね。ペットに対してどうやってオーリング診断なんかやるのかと思ったら、飼い主の指でリングを作って診断するんだって。
このときの取材では確か、獣医師の資格持って動物病院を開業している人が「私は動物の言葉がわかるから、うちの病院からはX線の撮影機材とか、そういうものは撤去しちゃったよ」みたいに言い放つのにも出くわしたなあ。
疑似医療問題って、ペット治療にまで話を広げると、そこには人間の医療以上の大きな宇宙が広がっちゃってます。
> 西洋医学においては、鍼・灸も疑似科学の扱い。ホメオパシーを
返信削除> 叩くあまり、鍼灸にまで飛び火しませんように。
疑似医療批判は、必ずしも「科学至上主義」である必要はないと思うんです。宗教の病気治しも、悪質なものについてが「疑似医療」として否定すべきだけど、それ以外は信教の自由や宗教文化を尊重する方向でいいと思うし。
ただまあ、「確実な効果があるように誤信させる」「それによって医療拒否が起こる」というだけの定義で、具体的な両方の選別をしてしまうと、相当な混乱が出そうですね。漢方はどうなのかとか、伝統医療系は特に。
「現実問題として社会に受け入れられ、たとえ習慣にすぎないとしても社会的に問題なく機能しているかどうか」というような、科学ではなく社会学っぽい論点も必要かと思います。
藤倉さんこんにちは
返信削除ペットのトンデモ医療に限らず、トンデモ系の人は事実とかは関係なく心地よいものに騙され信じちゃうって波動系ニューエイジャーそのものですね
ホメオパシーに限らずあちこちにこういった”罠”が張られててオカルト商品販売にひっかかりしちゃいますね
オーディオ等の趣味でオカルト的評価にある意味騙されてるならまだしも、健康や信仰・信心で騙されるのはちょっとね・・
ホメオパシーに関しては以前から阪大の菊池さんのブログ等で問題視されてきてるけどこういう批判的なものって、これはスゴイ!とか”とても素晴らしい”とか心をくすぐるモノと比べてなかなか浸透しませんね
これ(似非商品等)で商売しようとする連中の方がアクティブに宣伝打ちますもんね
で、コピーライターの文章とかに踊ってしまうビリーバー状態の人が飛びついて広めてしまう”無知と善意の最凶のコンビネーション”の誕生・・・
”波動注意報”的注意喚起の報がもっとうまく社会に(と言うか人に)伝わるといいんですがね~