“拉致・監禁”は認定されず、キャンペーン失敗の後藤事件地裁判決は統一教会サイドの実質敗訴か

“拉致・監禁”は認定されてないのに先走って
「マンセー！（バンザイ！）」と喜ぶ統一教会幹部ら

1月28日の東京地裁で言い渡された“後藤事件”の判決。本紙でも翌日、第1報を出した。

以降、原告の後藤徹氏が代表を務める【拉致監禁・強制改宗被害者の会】はHPで『東京地裁　拉致監禁実行者に賠償命令』との記事を掲載するなど、統一教会サイドは「勝訴！」と盛んに喧伝してきた。
しかし、判決文を子細に分析すると、東京地裁は統一教会が主張する“拉致・監禁”については明確に否定しており「“拉致監禁キャンペーン”裁判としては失敗」との見方もある。


◆表面的には一見“原告勝訴”

1月28日の東京地裁判決。統一教会の信者が拉致されたあげく12年5箇月に渡って監禁され統一教会への信仰を棄教強要されたとして、兄ら親族とカウンセラー数人らを相手取り約2億円の損害賠償を求め提訴していたものだ。 

東京地裁の相澤哲裁判長は、原告が最後に滞在した場所に於いてのみ被告らの行為について「長期間にわたって自由を大幅に制約」「外部との接触を絶たせた上で説得」「社会通念上相当というべき限度を逸脱」として親族に治療費33万9110円、慰謝料400万円、弁護士費用50万円の計483万9110円を、カウンセラーの宮村氏に対して「原告が不当に心身を拘束されていることを認識」「脱会を強要した」として親族へ命じた損害賠償額の5分の1（96万7822円）を連帯して支払うよう命じた。

◆“勝訴”に沸き立つ統一教会信者

この日も傍聴抽選には統一教会の信者らを中心として200人近くが並んだ。40数席の傍聴席の殆どを埋め尽くした統一教会関係者は、被告に損害賠償を命じる判決が言い渡されたことに沸き立った。閉廷後、直ちに原告は統一教会本部のセッティングにより東京地裁前で勝訴報告演説会を行ないその模様をネット配信した。集結した信者ら100人余りは原告を中心にしてマンセー！と三唱、喜びを爆発させた。

“勝訴”判決に沸き立つ原告や統一教会サイド、だが判決文の内容を詳細分析したところ、判決は統一教会側の主張を必ずしも全面的に認定したものではなく、統一教会側の主張を殆どの要所で否定し斥けたものであると判った。更に明らかな誤記や文章の意味が曖昧な箇所が多くあり事実認定に関しても誤りと思われる箇所が多数確認された。

◆“拉致監禁キャンペーン”裁判のカラクリ

正体と目的を偽った偽装勧誘などにより統一教会に入信させられてしまった肉親を心配する親族は、統一教会に関する問題に携わるカウンセラーや牧師に相談して、家族間の関係を再構築し、より良いものへと改善できるようにと取り組みを続けてきた。マインドコントロールされている信者が自分自身で考ることができるように、教団の影響が及ばない環境下などで話し合いを継続したことにより、今までに数多くの教会員が自身の精神を侵していた狡猾な心理操作や統一教会の実態に気付き、脱会することを自分自身の意思で選択してきた。そのような真摯な取組みに対し、統一教会側は「統一教会反対牧師と脱会請負屋が家族を唆し、今までに4千人以上の教会員が拉致監禁され強制棄教されてきた」などと主張する所謂“拉致監禁キャンペーン”を展開してきた。

統一教会が“拉致監禁キャンペーン”を展開した背景には、2008年～2009年に全国で統一教会系販社の摘発が相次いだことが挙げられる。摘発の影響が教団本部へ及ぶことを懼れた教団は霊感商法を“自粛”、その減収を補う形で、信者に対する“高額エンドレス献金”をより厳しく課すこととなった。そのような終わりなき高額献金要請は信者の生活を圧迫し、借金までした上で献金させられるケースも急増した。信者家庭はより一層貧しくなり生活困窮家庭も増加、不満が燻りかけていた。そのような献金納付指令に疲弊した信者の不満が教団本部へ向けられることを避けるため『反対牧師・脱会屋・左翼弁護士』という外敵の存在を掲げて信者に対しアピール、不満の捌け口を拵えたというわけだ。
そして社会に対しては『霊感商法の統一教会』ではなく『迫害を受けている統一教会』として、摘発逃れ・組織の防衛のために被害者アピール・正当性アピールを続けている。

要は誇張と歪曲に満ちた只のプロパガンタに過ぎないということだ。

今回の裁判も原告後藤徹氏は統一教会の全面バックアップを受けている。統一教会にとっては教団の正当性をアピールする絶好の機会であり、命運を賭けた裁判とも捉えられている。

◆問題箇所だらけの地裁判決

そのような背景がある“拉致監禁キャンペーン”訴訟に於いて、東京地裁は原告側の請求の一部を認定する判決を言い渡した。 

提訴した信者後藤徹氏は1986年に兄の誘いで統一教会へ入信、伝道機動隊、通称“伝機”と呼ばれる偽装勧誘チームの隊長などを務めていた。翌1987年には家族やカウンセラーの説得を受け一旦脱会表明をしたものの、その後にはまた統一教会へ戻っている。そして1995年9月11日に都内の自宅で家族から話し合いをすることを要請され、これを受諾、新潟県のパレスマンション多門で話し合いを続けた。同年の12月に脱会を表明。2年後の1997年6月22日に父親の死去を契機に帰京、杉並区の荻窪プレイスに滞在した。そして同年12月に偽装脱会だったことを告白した。その後、同区内の荻窪フラワーホームへ移って話し合いを続けるなどしてきたが、余りに不遜で不誠実な態度を取り続け、ひきこもり状態にあったため2008年2月10日、フラワーホームから出されたとされる。
 

東京地裁判決から事実認定に問題ありと思われる箇所を何点か挙げる。

・荻窪フラワーホームの玄関ドアが全期間、南京錠で施錠されていたと認定。（→検察審査会では認定しなかった箇所。南京錠は短期間のみ設置されていただけで、認定の根拠となった現役統一教会女性信者の証言は室内の位置関係からみて虚偽？）

・「原告に統一教会に対する信仰を棄てさせるとの目的の下に行なわれたものであることは明らか」「棄教を強要」と認定

・「原告の行動範囲に対する著しい制限が長時間に及び、原告の全身の筋力が低下するに至ったことが認められる」と認定（→スクワットや10kgもの卓袱台の持ち上げ、腕立て伏せや足踏みなどの筋力運動を毎日行なっていたことを原告自身が認めている）

・原告が偽装脱会を告白し玄関から出ようとした際に被告から取り押さえられたと認定

・被告のカウンセラー宮村氏が威圧的な言葉を原告に発していたとしてその文言が判決文に記載（→宮村氏が紳士的に接していたことは原告後藤徹氏も本人尋問の中で認めている）

・「偽装脱会の告白をした後においては、その場に留まり続けて家族らと共に生活を行ない、話合いを続ける意思を有しておらず」と認定（→その時期、家族が「宮村じゃあと話をするか？」と問いかけた際、徹氏は「します」と答えており、原告本人が承知しての話合いであったことを認めている）

 判決文には違法性を認定した時期から外れる滞在場所（パレスマンション多門及び荻窪プレイス）について記述した箇所に「各監禁場所の出入口の～」との文言がある。他にもカウンセラー二人の苗字（宮村氏と松永牧師）を混合し“宮永”とした箇所があるなど、細部に間違いが多々見受けられる。

原告側が主張する食事制裁については、断食を繰り返す原告の体調を気遣ったものだとして違法性は認定されていない。
統一教会サイドのキャンペーンの命綱である“拉致”については、原告が話し合いに入る際「渋々ではあったものの」自ら車に乗り込んだとして「原告に対する拉致行為があったものと認めることはできず」と認定されておらず、完全に否定された格好だ。 
そして、筋力低下については認定したものの、その他に原告側が主張した栄養失調・体力衰弱については認定していない。

慰謝料400万円は1日に換算すると約1.100円となる。統一教会サイドが主張する“監禁”を裁判所が認定したのならば慰謝料がここまで低額になるとは思えない。




 
◆証拠採用に偏り


その他判決では、被告側が主張した「原告の家族を入信させるという使命感」について否定 している。被告側が提出した家族伝道を意味する“氏族メシア”に関する徹氏の記名が入った書籍『氏族メシアと伝道』を、証拠採用しておらず、他にも被告側が提 出した証拠の多くが不採用となっていた。それに対し、原告側が大量に地裁へ提出した本件とは全く無関係な書証が証拠採用されており、証拠採用にかなりの偏 りがみられる。
また、判決文では被告側が問題提起した多くの事柄について触れていない。原告徹氏が出ようと思えば出ることができたのに外に出ようとしなかった数々の事柄（トイレ閉じ込め事件や出入り業者に助けを求めなかったこと、肉親との体格差など）について言及をしていないか、していても説得力に欠ける解釈に終始している。
原告が出て行けたのに出て行かなかった“ひきこもり状態”にあったことを裏付ける数々の証拠については敢えて採用せず重要視しなかったということか。 

◆“拉致と”“監禁”は認定されず“キャンペーン”失敗 

　

“拉致監禁”否定判決なのにマンセー！？

事実認定に関しては問題視される箇所が多く見られる今回の判決。それでも原告側の度を過ぎた厚顔な主張は、核となる部分に於いでほぼ全く認定されていない。今回の地裁判決は“拉致監禁キャンペーン”の要点を基準にした視点からみれば実質原告側統一教会側の敗訴である。
 現に判決直後、原告側代理人の統一教会幹部信者弁護士福本修也弁護士は「賠償額が安すぎる」などと憤慨していたそうだ。弁護士費用も50万円と低額の認定で、訴訟費用に関しても原告と被告親族の間に生じた訴訟費用の内40分の39を原告負担、被告宮村氏との間に生じた訴訟費用の200分の199を原告負担と、99％以上、つまり殆ど訴訟費用が原告の負担とされた。請求が棄却された被告松永牧師らとの間に乗じた部分は当然ながら全額原告負担だ。

キャンペーンとしては実質的には敗訴だったのにもかかわらず原告側・統一教会サイドは「勝訴！」と 喧伝をしてしまったことになる。

事実認定に問題ありと識者から疑問視される地裁判決に於いてさえ、誇張と歪曲に満ちた“拉致監禁キャンペーン”は司法から否定された。


◆伝道手法の違法性も明記


地裁判決は統一教会の伝道手法の違法性についても言及している。

統一教会の伝道方法に関し「信者による伝道活動には、街 頭における手相鑑定やアンケート、物品販売などを端緒として行われるものもあるが、それらの端緒の段階においては、その対象者に対して統一教会の伝道活動 の一環であることを告げられないことも多くある」としており、教団の行なう詐欺的伝道手法の違法性について記している。

統一教会側が「勝訴！」と騒ぐ裁判に於いても、教団の勧誘手法の違法性が認定されたというわけだ。
 

◆今後の相談・被害回復に悪影響の懸念も

判決の影響に関し被告の支援者からは「真摯に被害者の相談に乗っている人たちにとって、今後の相談やカウンセリングにマイナスとなってしまわないか心配」と話している。地裁判決の統一教会サイド“表面的勝訴”が悪用されないかと懸念しているのだ。

統一教会が『職業的改宗活動家』と、原告らが『脱会屋』と目の敵にする宮村氏の責任を限定的期間とはいえ認定する判決が出されたことにより、統一教会サイドは盛んに教団の正当性を内外に喧伝している。 

記者がヒアリングした自叙伝伝道中の信者たちは「拉致監禁を裁判所が認めた」と判決を一様に曲解していた。

その内容が正確に伝わっていない東京地裁の“拉致監禁キャンペーン訴訟”の判決は、カルト被害の蔓延を抑止するどころか逆に推し進めかねない“問題判決”と云えるであろう。

（記事内の画像はいずれもUSTREAM配信映像より）