【解説】幸福の科学学園の建築確認取り消し求め住民が提訴＝大津市

8月6日、幸福の科学学園関西校の建設予定地周辺の住民ら234人が、「県建築住宅センター」（草津市）を相手取って、同センターが学園建設に際して行った「建築確認処分」の取り消しを求める行政訴訟を大津地方裁判所に提起しました。訴状などで原告側は、すでに工事が始まっている建設予定地では最大で２メートルを超える切り土が行われているなど、本来は建築確認ではなく、安全性の確認などにより厳しい基準が設けられている「開発許可」が必要だとしています。

■建築確認か開発許可か

幸福の科学学園関西校をめぐっては、2011年12月に住民8209名が建築確認の取消しを求めて大津市建築審査会に審査請求を行いましたが、審査に半年もかかった挙句、住民側の主張について詳細な検討がなされないまま棄却されました。そのため、建築審査会への審査請求と同様の「建築確認の取り消し」を求めて、住民が大津地裁に提訴しました。

住民側は、建設予定地での工事は本来は建築確認ではなく「開発許可」を得る必要があるものだと主張しています。「開発許可」は土地の形状の変更を伴う工事を行う際に必要な手続きで、一方の「建築確認」は、土地の形状変更が一定基準以下である工事について行われる手続きです。必要とされる手続きが建築確認なのか開発許可なのかは、土地の形状を変更する面積によって変わります。今回、学園が「建築確認」という手続きで工事を開始した根拠となっているのが、大津市が学園工事に対して発行した、「開発行為に該当しない」とする証明書です（開発行為に該当しないから開発許可は必要ない、ということになります）。そこにはこう書かれています。

「建築物の敷地としての造成はなくアプローチやスロープでの切土が２ｍを超えない、盛土が１ｍを超えない、切盛土が２ｍを超えず、かつ盛土は１ｍ以下、また開発面積（切盛面積）は合計５００㎡を超えない為、形の変更はありません」

ところが住民側によると、学園建設工事の現場では実際には最大２メートルを超える切り土が行われているとのことです。また学園側は、建設工事の工期を部分的にずらしたり、校舎の工事と寄宿舎の工事について別々に建築確認申請を行うなど、本来一体であるはずの「幸福の科学学園関西校」を形式上、別々の工事として手続きを行なっています、しかし住民側によれば、建築行為を伴わない宅地の改変範囲の面積は、校舎用地930平方メートル以上、寄宿舎用地612平方メートル以上であり、いずれも基準値である500平方メートルを超えているとのことです。

これが、住民側が今回の「建築確認」を違法だと主張している根拠です。

ただし住民側が指摘しているのは、「建築確認」なのか「開発許可」なのかという単なる手続き論ではありません。住民側はかねてより、予定地の地盤が非常に軟弱で地すべりの危険等があるとする専門家のリポートやボーリングデータなどを踏まえた上で、安全性の確保と住民への説明を学園側に求めてきました。「開発許可」は、土地の形状変更を伴う工事に対する手続きであるため、地盤の安全性などについて「建築確認」よりもはるかに厳しいチェックが行われます。つまり今回の提訴の趣旨は、住民側がかねてより学園側に要求してきた「安全性の確保と住民への説明」のうちの「安全性の確保」の部分を要求したものと言えます。

■時間との戦い

学園側が「地盤は安全だ」と主張するのであれば、堂々と「開発許可」を得て工事を行えばいいのですが、いまとなってはそれも難しそうです。来年3月開校予定である幸福の科学学園は、開校までに滋賀県の私学審議会による開校の認可を得る必要があります。認可を得るには施設が完成している必要があるため、12月完成予定を11月関し予定への繰り上げて工事を進めています。いまから「開発許可」の手続きを取り始めようとすれば、この工事を中断しなければならず、予定通りの開校が難しくなります。

時間の制約を受けているのは、学園側だけでなく住民側も同様です。裁判の結論が出る前に学園が完成し、私学審議会の認可を得て開校する可能性があります。そうなれば、ただでさえ住民が危険視している軟弱地盤の上にどでかい施設が建ち、そこで子供たちが生活するという、住民にとってはよりいっそう不安な状態になってしまいます。

そこで住民側は今回の訴訟と同時に、判決が確定するまで、すでに出された「建築確認」の効力の停止を求める「執行停止」処分を大津地裁に申し立てました。これは民事訴訟の「仮処分」申請に相当するものです。つまり今回の訴訟と執行停止処分申し立ての結果次第では、来年春に学園が開校されるかされないかが直接左右される可能性もあります。

一方、私学審議会もこれとは別途、進行し、次回は9月上旬に開かれる見通しです。しかし文部科学省令「中学校設置基準」等は当然のことながら学校施設の安全性をうたっており、滋賀県の中学や高校の「設置認可等に関する審査基準」等は、「中学校（高等学校）の位置は、教育上および安全上適切な環境にあること」「崖崩れ等自然災害に対して安全であること」などを定めています。幸福の科学学園が住民の理解を得られておらず、ましてや土地の安全性を巡る裁判が係争中となれば、私学審議会もうかつな結論は出しにくいでしょう。

そもそも、学園開校を危惧する住民側の主張は、地盤の安全性だけではなく、学園と地域との関係や、学園内での宗教教育・政治教育に対する危惧も含まれています。当然、私学審議会は地盤の安全性だけで判断を下す機関ではないため、学園側にしてみれば、今回の訴訟以外にも超えるべきハードルが残されています。

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