キリストの幕屋がイスラエル支援の偽装デモ、大使館も関与

　都内で11月12日、保守系宗教団体「原始福音キリストの幕屋」がイスラエルを支援する集会とデモを開催した。主催者発表ではデモ参加者は1200人。日比谷公園から数寄屋橋交差点を経て大手町まで、約1時間、行進した。駐日イスラエル大使館が協力し、午前中の集会と午後のデモともに大使も参加した。

　名目上の主催者はキリストの幕屋の関連団体「イスラエル救援委員会」。参加者の多くは、その信者と見られる。大使館関係者もそれを認識した上でメディアへの告知などに関与した。しかし実質主催者が宗教団体であることは伏せられており、教団側は信者たちに、メディアの取材に応える際、実質主催者がキリストの幕屋であることを悟られないよう指示していた。

デモの前に宗教集会、メディア対策を指示

会場入口付近の案内（提供：市民の敵・菅野完氏）

　12日午前9時過ぎ。大手町にあるサンケイプラザ3階のホール前は、「幕屋◯◯」などと書かれたネームプレートをつけた信者たちでごったがえしていた。ホールに向かう廊下には「原始福音キリストの幕屋　東京聖日集会　会場はこちら」との案内が掲げられている。

　入り口では、金属探知機でのボディチェックに加え、来場者の手荷物を開けて中もチェックする厳重警戒。チェックを済ませると、上着にシールを貼られる。午後のデモも、このシールを貼っていないと参加できないと告げられた。

　キリストの幕屋は、手島郁郎（1910～1973年）が1948年に創設したキリスト教系新宗教。右翼団体「日本会議」の構成団体の１つとして、「新しい歴史教科書を作る会」にも深く関わっていたとされる。今回のデモの名目上の主催者である「イスラエル救援委員会」も、1967年の第三次中東戦争の際に手島が創設したものだ。

　集会の会場外の案内板は「キリストの幕屋」だが、会場内の壇上には「イスラエルのための東京キャンペーン2023」の横断幕が掲げられていた。これは午後に予定されているデモのタイトルだ。キリストの幕屋の集会とデモのための事前集会が一体となっており、実質的な主催者がキリストの幕屋であることがわかる。

　実際、集会開始前には壇上から、デモ行進の要領や注意点などがアナウンスされた。デモの際のメディア対応も指示された。

「この会場には報道関係の方はいませんが、デモの方には来られる可能性があります。その時は、〝広報担当の◯◯という者がおりますので〟とお伝え下さい。デモはイスラエル救援委員会が主催ですので、思いがあったとしても、広報担当にお願いします」

　信者から、「どちらから来ましたか？のような質問も広報担当者に回したほうがいいのか」と質問が飛ぶ。

「（メディアは）最初はそういう質問から入ってくると思う。賛同している体でいろいろ質問してくることもある。〝こういうデモ行進、いいですね。ところで、どういうグループなんですか？〟というふうに、だんだん突っ込んで話してくる。なので、もしちょっと怖いなと思ったら、〝〇〇さんに〟と」

　どういうグループなのかをメディアに知られたくないようだ。

〝ノーマスク集会〟に駐日イスラエル大使も出席

　聖歌のようなものを２曲、会場全員で歌った後に、司会者が来場者にマスクを外すよう「お願い」した。

「なんか、病院に入ってきたように見えるので」

　開場からドッと笑い声が起きる。300人ほどの集会参加者の大半がマスクを着けていなかったが、少数のマスク着用者たちも、ここでマスクを外した。

　ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使らが入場。事前に配られた日の丸とイスラエル旗を振り歌うノーマスク集団に迎えられて、大使らが席につき、集会が始まった。

　イスラエル国歌と君が代の斉唱。続いて、「この度のテロで亡くなられた方々、兵隊として命を落とされた方々のために」1分間の黙祷を捧げる。

　司会者が語る。

「今日は全国からこの場に来られた皆様、コーエン大使、ストゥルロヴ公使、その他の皆様方ともに、この場で決起集会を持つことができたことを、心から感謝いたします」

　やはりデモの決起集会という位置づけだ。

「皆様の多くは50年前の先生の〝イスラエルを孤児とするな〟という言葉を心に留めて、ここに来られた方も多いと思います。いま、現状を見るに、イスラエルに対する偏向報道が多く、まるでイスラエルが誰も殺されていなかったような報道をされて、怒りを覚える人が多いと思います」

　先生とは、前出のキリストの幕屋創設者・手島郁郎を指しているようだ。

　最初のスピーチは、「日本イスラエル親善協会」池田眞副会長。山谷えり子、榛葉賀津也両参議院議員や中山泰秀・前衆議院議員が顧問に名を連ねる団体だ。

「日本イスラエル親善協会の副会長をしております池田です。イスラエル救援委員会の代表も務めております。イスラエル救援委員会はただいまから、〝イスラエルのための東京キャンペーン2023〟を開催いたします」（池田氏）

　スピーチの最中、ところどころで信者たちが「アーメン」と合いの手を入れる。

「私達は自国の安全と自衛のために、国際犯罪であるテロリズムと祖国の存続をかけて戦っている現状を支持すべく、本日でも行進を行います」

「アーメン！」

「私達は、ガザに拉致された人々の即時解放を求める」

「アーメン！」

「イスラエルと中東の平和を祈る」

「アーメン！」

「ハマスのテロ行為を許すな」

「アーメン！」

「この3つの内容を主張しつつ、キャンペーンを行います」

駐日イスラエル大使の挨拶

午後のデモで先頭に立ったコーヘン大使

　コーヘン大使のスピーチは、各方面への謝辞から始まった。

「このような東京キャンペーンを企画してくださり、ありがとうございます。幕屋の皆さんは、どんなときも私達イスラエルとともに歩んでくれました」

　大使は「Makuya」とはっきり口にした。謝辞で名指しされた団体は、これだけだった。大使は、ハマスによる攻撃や拉致行為、人質の扱いなどを非難した上で、こう語った。

「（イスラエル）大使館前では毎日（イスラエルを批判する）デモが行われています。何のために彼らは叫んでいるのでしょうか。私達は2005年以降、ガザからは手を引いている。なのになぜ、パレスチナから遠いところにいる日本人がデモ行進をするんでしょうか。〝パレスチナに自由を〟〝地中海から大陸までパレスチナに返せ〟と彼らは言う。イスラエルの存在を認めていない。私はその人達にメッセージを送ります。〝我々は絶対に動かない。イスラエルの民はイスラエルから動くことはない〟と」

「アーメン！」

「反イスラエルの一方的な偏った報道をしているのが日本のメディアだと思います。ガザで傷ついた子どもたちの写真は流すが、イスラエルで焼き殺された赤ん坊たちの写真は流しません。イスラエルの攻撃で崩れたガザの家は映しますが、テロリストによって壊されたイスラエルの家は映しません。ですから、今日私達はこの東京キャンペーンで真実を叫んでいきたい」

　大きな拍手。メディアが偏っていると批判する反面、大使や他の登壇者が、ガザでの民間人犠牲者や、難民への人道支援に言及することもなかった。

「世界中、日本中でイスラエルへの反感の声がある時に、皆さんの力や声が必要なんです。本当に、幕屋の皆様に感謝いたします。また平和な日が来たらぜひ呼んで下さい。最後に、イスラエル国防軍のための祈りをご唱和下さい」（コーヘン大使）

「我々の使徒、アブラハム、イサク、ヤコブを祝福してくださった神様、どうかイスラエルのために戦っている私達の兵士をお護下さい」（同）

「アーメン！」

「そして敵を打ち破り、勝利の冠を彼らに与えて下さい」

「アーメン！」

イスラエル政府がからんだ偽装デモか

　午後のデモ行進は、主催者発表で1200人が参加した。アコーディオンなどにあわせて聖歌を歌い、ヘブライ語らしき文字のプラカードを掲げる。その装いから、大半がキリストの幕屋による動員に見える。

　午前中の集会はもちろん午後のデモも、一般には告知されていなかった。一般の参加者は集まりようがない。

「私達はデモの案内をイスラエル大使館にしか送っていない。どこで知ったのか」

　デモ主催者の広報担当者は、本紙記者に情報源を尋ねてきた。もちろん答えなかったが。

イスラエル大使館が日本のメディアにメールで配信したプレスリリース

　複数のメディア関係者等に取材したところ、メディアにデモのプレスリリースを配布したのは、デモ主催者ではなくイスラエル大使館だ。つまり、外部への事前告知を行ったのは大使館「だけ」ということになる。

　著述家の菅野完氏から「公安の犬」「モサド」などとあらぬ疑いをかけられているジャーナリストの藤倉善郎氏は、「キリストの幕屋には詳しくないので、市民の敵・菅野完に聞いてほしい」とした上で、今回のデモについて、こう語る。

「集会の内容から見て、デモの実質主催者はキリストの幕屋であり、コーヘン大使はじめ大使館側はそれを認識していた。その上で大使館側が、素性を隠して開催されるデモにメディアを集めるための案内を代行した。半官製デモだ。もちろん、イスラエル側の被害を指摘したり擁護したりする情報・言論も、蔑ろにすべきではない。しかし今回のデモは〝市民の声〟というよりはイスラエル政府のプロパガンダの一環と受け取られても仕方がない。加えて主催者は、日本の一般市民によるデモであるかのように装って意図的にメディアを欺こうとした。もはやイスラエル政府がらみの偽装デモと言ってもいいのではないか。陰謀論じゃないぞ」

　デモの際、キリストの幕屋が警戒していたメディアは、大手ではテレビ朝日1社しか確認できなかった。同社はこのデモを「イスラエルのコーヘン駐日大使や留学生、日本人の支援者らが参加し」と報じた（同社YouTube）。

　デモ現場でテレビ朝日のスタッフにデモの背後関係を伝えていたという前出の藤倉氏も、呆れ顔だ。

「一般的には、キリストの幕屋自体はテレビのニュースにするほどではないマイナー団体かもしれない。それを詳しく報じるべきとは言わないが、他国の政府がからんでまるで一般的な市民によるデモであるかのように装ったものを、まんまと乗せられてそのまま垂れ流すのはいかがなものか。取材スタッフが現地で得た情報を、もう少し大切にした方がいい」

参考記事：「イスラエル支援デモ」をめぐる外国勢力の謀略にまんまとハマってしまうテレビ朝日の愚かさについて。（菅野完）