2009年11月29日日曜日

バチカン銀行の資金洗浄に捜査のメス。20世紀から続く資金洗浄の歴史

バチカン銀行の闇は第二次世界大戦にまでさかのぼる深いもので、イタリアンマフィアとも密接な関わりがあります。

こんなことを書いていると「陰謀史観に支配されたヤツの与太話」と思われてしまいそうですが、少なくともイタリア司法当局はそのようには考えていません。この問題はイタリア司法当局が実際に動き、捜査関係者が殺され、2006年にはマフィア幹部が実際に起訴され、そして今回の産経の記事で紹介されている事件につながっている、実話です。


【産経ニュース 2009年11月27日】バチカン「神の銀行」に捜査の手 資金洗浄に関与か
取引のあるイタリアや米国の銀行の担当者の中にはマフィアの世界とつながりのある者もおり、他国の捜査機関が原則として指一本触れることのできないバチカン銀行は、麻薬資金などの巨大な洗浄装置として悪用されるようになったとされる。法王庁は一貫して否定しているが、一説によれば、バチカン銀行は資金洗浄額の10%以上を手数料として取り、得た利益を東欧や中南米の反共組織に送金していたともいわれている。

現代からは全く想像もつかないほどに、当時のイタリアではそのような闇の権力が大きな力を持っていました。例えば日本でも30年前にヤクザがどれほどの力を持っていたか思い出してみてください。当時は日本でも選挙で「一票は5000円で買える」とかが当たり前に行われていたような、そんな時代の話です。

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さて、本題に戻りましょうか。
バチカン銀行の正体は産経の記事にもあるように、宗教事業協会です。この協会は第二次世界大戦中の1940年頃に成立。最大のユダヤ系財閥、ロスチャイルド家の肝いりで設立されました。バチカン銀行が持つ巨額の資金(まぁ原資はロスチャイルド家のカネですけど)は、他の民間銀行によって運用され、投資先はキリスト教の教義などとは無縁に、兵器メーカーやポルノ出版社などにも出資・融資を行ってきました。

そうした投資業務をバチカン銀行に成り代わり請け負っていたのが、イタリアの銀行『アンブロシアーノ銀行』です。その関係は以下のようになります。

 ロスチャイルド家 >(出資)> バチカン銀行 >(業務委託)> アンブロシアーノ銀行

アンブロシアーノ銀行はイタリアンマフィアと結託しマネーロンダリングを行うなど、闇の権力と密接な関わりがありました。特に問題になったのは1980年代。当時のバチカン銀行の総裁はアメリカのシカゴ出身のポール・マルチンクス大司教で、まさにイタリアンマフィアとシカゴギャングのコラボレーション。

ポール・マルチンクス大司教は、こうした問題を改革しようとしたヨハネ・パウロ1世の暗殺にも関わったとも言われています。

その後、アンブロシアーノ銀行は大量の使途不明金を抱えたまま、破綻。大スキャンダルとして社会的問題になったことで、イタリア司法当局も動き、大々的な捜査が行われました。しかし捜査関係者が暗殺されたことはもちろん、頭取、秘書といったアンブロシアーノ銀行の中枢の人間も暗殺され、四半世紀がたった現在も事件の真相は闇の中です。

冒頭で「2006年にはマフィア幹部が実際に起訴され」と書きましたが、これらの暗殺事件に関わった疑いのあるマフィア幹部5人に対してローマ地裁は2007年6月に「全員無罪」という判決を下しました。また、イタリアの司法当局は87年に、ポール・マルチンクス大司教に対し、「アンブロシアーノ銀行を倒産に追い込んだ」などとして逮捕状を出しましたが、バチカン市国は引き渡しを拒否したという経緯もあります。

すなわち、バチカン市国は国という枠組みを利用して現在においても、闇の世界をかばい続け、自身のスキャンダルを隠蔽しようとしているわけです。なお、アンブロシアーノ銀行が破綻してからは、ロスチャイルド銀行が自ら業務代行(投資顧問)を行っています。その他では、ハンブローズ銀行とクレディ・スイスもバチカン銀行の業務を請け負っています。

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しかし、イタリア司法当局は戦いを辞めたわけではなかったようです。それが今回のニュースですね。

イタリアンマフィアと司法の戦いはたびたび映画化などもされてきましたが、これまでは何度戦いを繰り返してもその闇の総本山に迫ることは出来ませんでした。しかし近年、各国で政治と権力のクリーン化が進み、イタリア司法当局にとっても追い風になっています。実際、イタリアは2008年には5000億円に上るマフィアの資産を押収して国庫を潤しています。

また、これまでバチカンを支えてきた、ロスチャイルド銀行を始め、ハンブローズ銀行とクレディ・スイスも、さすがに今時マフィアに直接関わるような危ない橋は渡っていないと思われ、バチカン銀行を切り捨てる準備は既に万端整っているのではないでしょうか。

ただ一方で、スキャンダルで有名なベルルスコーニ首相自身はマフィアとの関係もたびたび取りざたされており、またバチカン市国も相変わらず国という仕組みを駆使してスキャンダルを隠蔽しようとしているのも事実。今後はイタリア司法当局がどこまで旧世紀の遺産ともいえる闇の総本山に迫ることが出来るのかに注目です。

もっとも――、渦中のバチカンはそんなことよりも「売却された教会がナイトクラブに転用されたことに苦言を呈する」のに忙しいようですが。
【AFP 2009年11月27日】売却された教会、ナイトクラブに転用も バチカンが注意促す
ラバジ議長は、あるハンガリーの大聖堂が「今やナイトクラブに改装され、祭壇の上でストリッバーが踊っている」と例を挙げた。

【参考】

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