2010年7月11日日曜日

ホメオパシー?で乳児死亡、母親が助産師を提訴(山口地裁)

 出生直後の女児に助産師がビタミンKを与えなかったために女児が死亡したとして、母親が助産師に対して損害賠償を求める訴訟を山口地裁に提起しました。新聞は、助産師が所属する団体名や療法名を報じていませんが、ホメオパシーを用いる団体と思われます。

【YOMIURI ONLINE 2010年07月09日】「ビタミンK与えず乳児死亡」母親が助産師提訴

 生後2か月の女児が死亡したのは、出生後の投与が常識になっているビタミンKを与えなかったためビタミンK欠乏性出血症になったことが原因として、母親(33)が山口市の助産師(43)を相手取り、損害賠償請求訴訟を山口地裁に起こしていることがわかった。

 助産師は、ビタミンKの代わりに「自然治癒力を促す」という錠剤を与えていた。錠剤は、助産師が所属する自然療法普及の団体が推奨するものだった。

 母親らによると、女児は昨年8月3日に自宅で生まれた。母乳のみで育て、直後の健康状態に問題はなかったが生後約1か月頃に嘔吐(おうと)し、山口市の病院を受診したところ硬膜下血腫が見つかり、意識不明となった。入院した山口県宇部市の病院でビタミンK欠乏性出血症と診断され、10月16日に呼吸不全で死亡した。

 新生児や乳児は血液凝固を補助するビタミンKを十分生成できないことがあるため、厚生労働省は出生直後と生後1週間、同1か月の計3回、ビタミンKを経口投与するよう指針で促している。特に母乳で育てる場合は発症の危険が高いため投与は必須としている。

 しかし、母親によると、助産師は最初の2回、ビタミンKを投与せずに錠剤を与え、母親にこれを伝えていなかった。3回目の時に「ビタミンKの代わりに(錠剤を)飲ませる」と説明したという。

 助産師が所属する団体は「自らの力で治癒に導く自然療法」をうたい、錠剤について「植物や鉱物などを希釈した液体を小さな砂糖の玉にしみこませたもの。適合すれば自然治癒力が揺り動かされ、体が良い方向へと向かう」と説明している。

 日本助産師会(東京)によると、助産師は2009年10月に提出した女児死亡についての報告書でビタミンKを投与しなかったことを認めているという。同会は同年12月、助産師が所属する団体に「ビタミンKなどの代わりに錠剤投与を勧めないこと」などを口頭で申し入れた。ビタミンKについて、同会は「保護者の強い反対がない限り、当たり前の行為として投与している」としている。

(2010年7月9日 読売新聞)
※下線・太字は本紙

 記事中、助産師が所属する団体について、<「自らの力で治癒に導く自然療法」をうたい、錠剤について「植物や鉱物などを希釈した液体を小さな砂糖の玉にしみこませたもの。適合すれば自然治癒力が揺り動かされ、体が良い方向へと向かう」と説明している。>と書かれています。この自然療法の名称が書かれていませんが、内容から考えてホメオパシーと思われます。

 ホメオパシーは、「類似したものは類似したものを治す」という思想に基づいて、ある症状を引き起こしている人に対して、健康な人に投与した場合に同じ症状を引き起こすとされる物質を投与することで病気を治せるとする、民間療法です。ここで用いられるレメディ(ホメオパシー薬)は、類似症状の原因物質の希釈と震盪を繰り返し砂糖に染み込ませて作ります。このレメディの作り方が、上記記事の説明と共通しています。

 ホメオパシーについては、本紙が3月28日に報じた通り、英国議会委員会がその有効性を完全否定し、国家支出をやめるべきであるとの提言をまとめています(英国議会委員会がホメオパシーを完全否定「プラセボ以上の効果なし」)。

 一方で、これも本紙既報の通り、日本では民主党政権下で民間療法や代替医療を「統合医療」と呼んで、保険適用や国家資格制度整備を検討する動きがあります(民間療法推進、国家予算は4年間で1,800億円? )。これを受けて厚生労働省が今年2月に発足させた「統合医療プロジェクトチーム」では、「統合医療」の一例の中にホメオパシーが含まれています。

 こうした動きがある中で、ホメオパシーと思われる療法で死者が出て裁判沙汰にまでなった以上、メディアは、助産師の氏名や所属団体名を伏せるのはいいとしても「ホメオパシー」という療法名くらいはしっかり報じるべきです。しかしざっと見渡したところ、今回の提訴を報じた新聞の記事には、いずれも療法名は書かれていないようでした。

 逆に、YOMIURI ONLINEで、こんな記事を見つけました。裁判沙汰になった民間療法の療法名は報じず、その一方で、「ホメオパシー講座」を開催するような店を「ママと赤ちゃんの憩いの場」などと言って紹介しちゃったりしています。

【YOMIURI ONLINE 2010年07月06日】ママと赤ちゃんの憩いの場 コミュニティカフェ「はぴくす」/東京都板橋区

 東武東上線の中板橋駅前から北に伸びる商店街。その真ん中あたりにあるお店に、赤ちゃんを抱いたママたちが続々と集まって来た。店の名は「夢の玉手箱・はぴくす」。育児支援などの拠点を目指すコミュニティカフェだ。

 有機野菜や無添加食材を使ったメニューを取り揃えるほか、子育てに関するセミナーやイベント、コンサートなどの会場にもなる。赤ちゃんを連れていても、ゆったりとした時間を楽しめるのが人気の秘訣のようだ。
(略)
 「はぴくす」の7月のスケジュール表を見ると、今回のようなマッサージのほかに、「ベビースキンケア講座」「ホメオパシー講座」「骨盤ダイエット講座」などの講義がずらり。中には「失敗しない学資保険の選び方講座」といった家計に関するセミナーもあった。
(略)
<取材/フリーライター・吉田彰男>
※下線・太字は本紙

 代替医療は、一歩間違えば、憩いどころか子どもの健康を損なったり、場合によっては死なせてしまうことすらあります。メディアも、代替医療に対してもう少し警戒感を持った方がいいのではないでしょうか。

2 コメント:

reservoir さんのコメント...

本件は問題が表に出たという点で価値が高いですね。

ホメオパシー等のややオカルト療法と、助産院・助産師との相性の良さは大変興味深く継続監視しております。

正ちゃん さんのコメント...

大阪大学の菊池誠さんのサイトでも議論されてますね。
ホメオパシーも根の深い問題だと思います。
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php