2022年3月31日木曜日

【まいんど】「宗教二世」の葛藤と苦悩を伝える論文(下)=藤田庄市

 前回「上」の続き。Aさんの論文「宗教2世問題と支援の展望-アンケート調査による実証的分析を通してー」の紹介を続ける。同論文は2世問題に関し、脱会過程と宗教2世への支援を二本柱にして詳細に論じており、今回はその脱会過程の諸相から、①脱会の布石となった事項、②脱会の阻害要因、③脱会後に生じる困難のうちの精神状況の一部を伝える。なお、アンケートの回答は自由記述であり、そこに含まれるすべての要素を洗い出すために、AさんはKJ法を用いて分類をおこなっている。

本連載は「週刊仏教タイムス」に連載中の「まいんど マインド Mind」を、同紙と筆者の藤田庄市氏のご好意により再掲載させていただいているものです。記事中、一部表記を変更しています。本紙での再掲載にかんする責任はすべて本紙にあります。問合せ・意見・苦情等は、「やや日刊カルト新聞」編集部(daily.cult@gmail.com)までお寄せ下さい。
 

脱会の布石と阻害要因

 では「脱会の布石となった事柄」はどのようなものだったか。有効回答者192名、分類件数のべ356件。これを27の小項目に分類したところ、1位は「教義への疑問」が47件、2位は「親の信仰強要や束縛への恨み」の37件であり、3位はネットなど「外部情報への接触」が30件だった。

 この「教義への疑問」と「親への恨み」は、次の「脱会の阻害要因」をみるといっそうはっきりしてくる。有効回答者234名、分類件数のべ292件のうち、大項目では①「家族との関係」計162件、②「教義・教団への疑問」計86件、③「社会での居所のなさ」計29件、④「(脱会の)苦労なし」計15件となり、阻害要因は家族と教義・教団が圧倒的であり、これがなにより2世問題の際立った特徴であることがわかる。

 生活基盤の家族と精神的「拠り所」である教義・教団が、2世に覆いかぶさっているのでは、動きがとれなくなる。小項目の集計を見てみよう。「(親との)絶縁の恐怖」の26件がトップで、2位は「教義を破る恐怖心」が25件、3位は「(親の)精神的攻撃」22件と、阻害要因の様相が顕著に表れている。

 回答を紹介しよう。

 「やはり親と断絶してしまう可能性の高さが一番の恐怖だったと思います」
 「脱会して教団から心が離れてしまうことで、死んでから地獄に落ちるなど、教義による精神的束縛があった」

 宗教2世にとって親と教義・教団が脱会の二大阻害要因であることははっきりした。ただ私見を述べさせてもらえば、親も教義・教団に呪縛されているからこそ、阻害要因として目前に物理的な姿をとって立ち現れてくるのであり、親までひっくるめていわゆる「カルト」の本質が、後述する「スピリチュアル・アビュース」である。

脱会後の精神状況

 では、親の頸木から脱し、信仰を放棄したからといって2世の苦悩が解消するかというと、そう単純ではない。たしかに自由や開放感を手に入れたという回答はあるが、事態は複雑で深刻である。そのさまを、Aさん論文は「脱会後に生じる困難」として明らかにした。論文はそうした困難を「精神状況」「経済状況」「家族関係」の三方面から分析しているが、ここでは紙幅の関係から「精神状況」のみを検討する。私が同論文に注目する最大の理由は、ここに「スピリチュアル・アビュース」の実態が統計的に実証されていると考えるからである。

 論文では、「脱会後に生じる困難」については「現在脱会について悩んでいる者」を除き、「かつて脱会を経験した」125名を対象に、回答をのべ340件の項目に分解。思考面32項目、感情面27項目、身体状況13項目、行動面9項目、出来事・状況18項目のそれぞれに分類した。先に指摘した教義・教団の呪縛に重ね合わせて、思考面と感情面のワースト3を挙げてみる。思考面では、①「信仰を捨てた罰があたるかもしれない」、「親が憎い」がともに7件、②「教義を破ってしまっている」6件、③「今までの人生を無駄にしてしまった」、「家族を失った・裏切ってしまった」がともに5件。また、感情面では、①「罪悪感」10件、②「抑圧・苦しい」と「不安感」がともに8件、③「孤独感」「不安定」ともに7件。「恐怖」も5件あった。

 以上のように、脱会しても2世は教義・教団の影響に悩まされる状況が続くことがわかる。何故か。Aさんは、この回答を寄せた者の多くが「エホバの証人」と「旧統一教会(現家庭連合)の2世であり、両教団はそれぞれ「ハルマゲドン」「(棄教すると)地獄に落ちる」という教義によって常に信者にたいして恐怖を教え込んでいるためだと論じる。さらに「両教団とも『唯一の真理を持っている組織』という教義的価値観が強く、そこから脱会した信者に強い罪悪感をもたらす仕組みが存在している」と続ける。同感である。

 とはいえ教義・教団の呪縛は、脱会した1世にとっても同様にある。ところが2世の場合、その呪縛は親の存在と不可分であるという特徴と同時に、特有の深刻さがあるのだ。、2世はものごころがついた幼少時から、スピリチュアリティが親=教団によって唯一無二の価値観(信仰)として制圧されている。私の持論は、この「制圧」が「スピリチュアル・アビュース」、すなわち「超越的存在を背景とした絶対的な地位が濫用され、日常的に信仰虐待が行われる」のである。端的にいえば、強烈な宗教的脅迫=恐怖によるアビュースである。そして2世は、自分の価値観を他の価値観と比較し、判断する力を閉ざされて成長せざるを得ない。そのため、悩みを打開する方向すら自分の力で見い出すことも難しくなる。脱会後における「身体状況」のトップが「うつ病」14件と断トツなのはその反映といえよう。

 結論に入ろう。この「スピリチュアル・アビュース」が宗教2世の「壮絶な苦悩と葛藤」の根源にあると、Aさんは論じ、そして、2世脱会者援助の実践と研究している竹迫之(日本基督教団白河教会牧師。宮城学院女子大学非常勤講師)の主張を提示する。(以下引用は趣旨)

 「『スピリチュアル・アビュース』とは子どもに対する宗教アプローチの不正使用・乱用であり、従来の虐待の分類体系とは同列に扱ってはならない」
 「虐待行為におよぶ基準が親の所属する宗教団体の価値基準によって行われている」
 「未成年者の場合、肉体的虐待や性虐待があるわけではなく、外部から虐待と感知できない。親子問題だとして警察も取りあわない」

 つまり、「宗教2世」問題は、旧来の見方のままの虐待論や、親の教育権であるとか、信仰継承のトラブルであると捉えてしまうと、当事者の苦悩や葛藤は見えなくなってしまうのである。

 ゆえにAさんは結論として宗教2世問題が「『スピリチュアル・アビュース』という新たな人権問題として日の目をみることを期待する」と結ぶ。

 付け加えると、アンケート回答者の中にはキリスト教会の子弟も含め伝統宗教の2世3世も少数ながら存在した。Aさんは「スピリチュアル・アビュース」がいわゆる「カルト」教団でなくとも起こり得ると考えている。新しい人権問題というのはそうした普遍性に通じているのである。(一部敬称略)

(『仏教タイムス』2021年7月16日付紙面より)
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ふじたしょういち 1947年東京生まれ。フォトジャーナリスト。日本写真家協会員。主な著書『オウム真理教事件』(朝日新聞社、1995)、『宗教事件の裏側 精神を呪縛される人々』(岩波書店、2008)、『宗教事件の深層 スピリチュアル・アビュースの論理』(春秋社、2017)、『修行と信仰』(岩波書店、2016)、写真集『伊勢神宮』(新潮社、2017)ほか多数。

11 コメント:

娘連れ狼 さんのコメント...

スピリチュアル・アビュースに関して、自らの経験をもとに一つの事例を紹介いたします。
私には離婚した妻とのあいだに一人娘がいます。離婚後は私が引き取ってこれまで育ててきて、昨年20歳となり成人いたしました。元妻は離婚後、数か月に一回、自分の気が向いた時に気まぐれでしか娘に会わずにきましたが、最近になって娘の仕事帰りに合わせ、毎日職場の前に現れて最寄り駅まで付きまとうようになりました。最初はとりとめのない会話をしていたようですが、そのうち私に直接「娘にバプテスマ(洗礼)を受けさせたい」と切り出してきました。
彼女は末日聖徒(モルモン教)の信者になっていました(正確には再び信者に)。私と結婚してから一度棄教したのですが再び入信していたのです。そして娘も自分の宗教に引き込もうと思い始めたようでした。動機は単なる我欲ですが、手っ取り早いところから布教・宣教という側面もあるのでしょう。すでに盲信の域に達しているため、「我が子といえど一個人」という私の意見はまるで通りません。
「娘はあなたの所有物ではない」「いや娘は私のものだ」……このような問答が繰り返されたわけですが、ここで重要なのは、娘には「知的障害」があるということです。
成人した娘の意思で入信するのなら、憲法に記されているように反対もできませんが、娘の知能は小学1〜2年程度であり、親が加入を勧める宗教の良し悪しを自分で判断する能力などないのです。話の内容が皆目わからなくても「うん」「はい」と言って同意してしまう知的障害者に、親のエゴで信者の地位を押し付けられるのは「強要」と変わりません。しかし、ひとたび入信に応じてしまうと、成人であることを盾にとられて入会が正当化されてしまう恐れがあります。
宗教一世による知的障害者の子に対する信仰の強要は、たとえ成人であっても、本人が何も自覚していないという理由からモラルの面で非常に問題があると感じます。

匿名 さんのコメント...

知的障害者は宗教、医療では客になるだけです。しかも知的障害者の雇用対策さえもまともに機能していません。そもそもまともな法人監視がないことが問題なんです。どんどん情報公開しましょう。

匿名 さんのコメント...

そうでしたか… 大変でしたね

匿名 さんのコメント...

モルモン教の信仰箇条8条に「われらは、正確に翻訳されたる限り、聖書は神の言葉と信ず。またモルモン経も神の言葉と信ず」といいながら、一方では「正確に研究すれば、たいがいモルモン経の方が正確なることが証明されます」(信証講義)としている。しかし、モルモン経の元となる金板はすでに存在せず、ジョセフ・スミスが得体の知れない眼鏡を使って解読したとしているだけのものである。

1843年、聖典に基づいて教義として一夫多妻制を主張(教義と聖約第132)したにも関わらず、1890年には議会の議決に負け、世間に迎合する形で廃止宣言をした。これは経典に説くものを放棄するという、信仰上の節操の無さを表している。

結論 モルモン教はキリスト教を断片的に利用しているだけで、自分の都合によって勝手な教義を立てる無責任な教団である。

匿名 さんのコメント...

名古屋の単立寺院 久遠山不退寺にはそうしたカルトから人を守ります。元妻が勧誘に来て上の文を使っても棄教しないならぜひ相談しに来てくださいね

匿名 さんのコメント...

私は上のコメントをした方と関係ありませんが
https://gigazine.net/news/20230516-mormon-whistleblower-ensign-peak/
モルモン教が関連会社の援助を理由に教団の資産を不正に流用したそうです。
このことを奥さんに知らせてみてはいかがでしょうか

hqporner さんのコメント...

Hdporner

匿名 さんのコメント...

韓国創価学会では、
勧誘が計画され実施されるのだが、信者候補の名前から公明党、国土交通省、創価学校、創価病院から親族、不動産、病気情報の収集をする。
学会取引は贈答品となる。
信者候補の勧誘が決定されると計画書がつくられる。
計画書の審査は第6代会長の原田稔がする。
学会の内部留保(総資産)は1000億円規模。

匿名 さんのコメント...

ソースは?
あなた他の記事で課税がどうたら言ってる方?

私は学会員じゃないけど、変なコメントするより法華経を信じ南無妙法蓮華経と唱えてほしいな

匿名 さんのコメント...

What do you mean?
porn? It’s not a sexual website
Stop posting any advertisement

YOU need to believe Nichiren大聖人,and say 南無妙法蓮華経

匿名 さんのコメント...

宗教法人や特殊法人は、税制上の優遇措置(寄附金控除等を含む)があり、過去の実績がある場合、数年程度掛かるのが普通で非課税特権になります。これらの法人はカルトやマネロンを想定した法が作られていない非課税法人で、公益性が主導した法人によって、建て前上、善意活動で利益性より公益性があればボロ儲けできます。そこで庶民が好む善意活動で政治献金してキックバックする仕組みで怠慢な法人の対応は放置されています。