2016年6月7日火曜日

【社説】苦悩する野党支援者の進むべき道=参院選・石川

親鸞会での偽装勧誘への関与を認めた柴田未来氏
参院選石川選挙区の野党統一候補の柴田未来(しばた未来)氏が6月5日、支援者の会合の席で、自らが浄土真宗親鸞会の偽装勧誘に関与したことを事実上認めるとともに、親鸞会の活動についてとくだん反省しているわけでもなく選挙の都合から親鸞会を退会したことを表明しました。支援者たちが、苦悩しつつもこの問題に正面から向き合おうとした会合でした。しかし、ひとつ、重大な問題が置き去りにされています。それは有権者への説明です。

■葛藤と向き合おうとした支援者たち

6月5日に石川県内で開催された柴田氏の支援者の会合では、柴田氏自身が過去に親鸞会の偽装勧誘に関与していたことを認めるとともに、信者であることが表沙汰になった後、選挙への影響を懸念して親鸞会から退会したと表明しました。しかし自身の親鸞会への関わりに問題があったとは認めようとせず、反省している様子もありません。

一方、参加した市民からは、柴田氏の説明が事実と食い違っていることなどを指摘する声のほか、「安倍政権の暴走をストップ」(参加者)したいという思いと野党統一候補が親鸞会信者であるという事実との板挟みに、戸惑い葛藤する声が聞かれました。この会合での柴田氏の態度を「残念だ」と語る参加者もいました。会の呼びかけ人は最後の挨拶で、「安倍政権打倒」という目的と柴田氏問題をめぐる支援者の現状を「まるで両方から踏み絵を踏まされているような状態」と表現しています。

石川選挙区では、野党各党や地元市民団体が親鸞会の被害者団体からの要望書に返事も出さずに無視し、「安倍政権打倒」の大合唱で柴田氏の問題をないことにしようとしてきました。それを本紙は「野党ファシズム」と非難してきましたが、今回のような会合が支援者の呼びかけによって開催されたことは高く評価したいと思います。柴田氏への支援をめぐる支援者たちの苦悩が痛いほど伝わってくる内容で、そうなることを覚悟の上で開催を決意した主催者に敬意を表します。

もちろん、今月22日の参院選公示を控えた現段階でのこうした会合は、遅きに失した感が否めません。たった1度の会合で結論を出せるものでもなければ、いまさら各党や市民団体による推薦や支援を取り下げることも難しいでしょう。しかし、それでもこの会合が素晴らしかったのは、言いたいことを言い合って「じゃあ、そういうことで、あとはみんなで柴田さんを応援しましょう」などという予定調和のガス抜きイベントのような結論で終わらなかった点です。

柴田氏本人は、親鸞会問題を他人事のように捉えてまとめる挨拶で締めくくりましたが、会としては特定の方向性での結論を出さないまま終わる形でした。語るべきことを語り、語らせ、それを聞いた上での判断は各自でという、まさに民主主義的な姿勢を貫いた会合と言えそうです。

■あとは有権者への説明だ

しかしこの会合では、残念だった点もあります。有権者に対してどのように筋を通すのかという視点がすっぽり抜け落ちていた点です。

支援者にしてみれば、この問題に自分たちがどう折り合いを付けるかを考えるので精一杯で、そこまで考える余裕がないのかもしれません。しかし選挙が始まれば、柴田氏自身や野党4党、各市民団体による宣伝、支援者による口コミに乗せられて投票するのは有権者です。

親鸞会の偽装勧誘がなぜ問題なのか、考えてみましょう。その勧誘が親鸞会であることや宗教勧誘であることは、勧誘された人がその団体に自分が関わるべきかどうかを考える上で重要な判断材料です。しかしそれが隠され偽装されていれば、勧誘された人は自由に判断することができません。偽装勧誘が問題であり、裁判において違法とされたケースまであるのは、それが勧誘された人の「自由に選択する権利」を奪う行為だからです。

では、これを選挙に置き換えたらどうでしょうか。柴田未来氏という候補者が親鸞会信者であり、偽装勧誘に関与していたこともあり、そのことを反省もせずに選挙で不利にならないようにするために「脱会した」と言っている。柴田氏の経歴、人柄、信頼性すべてに関わるこうした事実は、有権者の判断を左右しうる重要な判断材料になります。これを有権者に伝えないことは、それこそ有権者の選択権を奪う行為ではないでしょうか。

支援者の会合では、

「積極的に支援できないという声もある」

「自民党に入れるわけにも行かないから白票や棄権という考えも出てきてしまう」

という類いの声もありました。しかしほかにも選択肢はあります。柴田氏の問題をきちんと有権者に説明し、その上でなお、有権者が「安倍政権を倒すには今回はこの人に投票するしかないんだ」と判断したくなるような支援活動をして見せるという方法です。

柴田氏の問題はすでに表面化しているのだから、いまさら隠したところで、その不誠実さは簡単にバレます。というか、もうバレています。ただでさえ野党の勝算が高くない保守王国の石川選挙区。さらに勝算が遠のくばかりか、今回の参院選以降も続くであろう野党陣営の戦いや市民運動への信頼までも損ないかねません。

会合では、柴田氏の問題について「自民党が怪文書の準備をしているとの情報もあった」という話が出てきました。これが事実かどうかは置いておくとして、自ら問題の存在とそれに対するしっかりした見解を示してしまえば、怪文書など恐れる必要もなくなります。

善意でなく単純な損得勘定から言っても、隠し事なんかしない方がお得です。

支援者に限らず、柴田氏本人や柴田氏を推薦している野党4党も、いますぐに声明文でも出して有権者に事実と見解を伝えるのが筋でしょう。そもそも柴田氏を統一候補にしているのは野党各党です。支援者に苦悩を背負わせなよう、公党としてきちんと責任を果たしたらどうでしょうか。

■勧誘被害予防のための啓発も

会合では、親鸞会信者がボランティアとして柴田陣営に入り込み人脈を広げることで、それが親鸞会の勧誘に利用されるのではないかと危惧する声も挙がりました。

参加者の一人からは、こんな意見も出たほどです。

「もし親鸞会の会員だと特定できる方が(選挙への)協力を申し出てきたら、個別に全員に話をしておかなければいけないと思います」

選挙運動に関わった人が、カルト宗教の勧誘を受けるかもしれない。それを予防しながら選挙に臨まなければならない。こんな異常な選挙は、なかなかありません。

本紙では、会合で親鸞会のダミーサークルとして名指しされた「異業種交流会in金沢」のイベントに、柴田氏の支援団体の1つである「いしかわ勝手連」の共同代表者が2014年に複数回、参加していることも確認しています。この人物は、「異業種交流会in金沢」のトップ画像にまで顔出しをしています。

この人物が信者なのか、それと知らないまま部外者としてサークルに出入りしているだけなのか、それはわかりません。いずれにせよこうした状況から、たとえ信者でなくても親鸞会と知らずにサークルに出入りしている人物が、ほかの柴田氏支援者をサークルに誘うことによって、自覚のないまま偽装勧誘の片棒を担いでしまう事態すら予想されます。

しかし、柴田氏と親鸞会の関係、親鸞会が批判される理由、親鸞会の勧誘手法が支持者や有権者にしっかり周知されれば、親鸞会勧誘に対する予防効果はかなり期待できます。

選挙運動とカルト被害予防を同時に行えるなら、むしろこんな素晴らしい活動はないかもしれません。

■石川県よ、これがカルト問題だ

支援者だけではなく各政党の関係者もおそらく、同じ苦悩を抱えながら選挙の準備に追われていることでしょう。本紙・藤倉総裁の取材を妨害した「いしかわ市民連合」の共同代表者や社民党金沢市議の森一敏氏も、悪意があったわけではなく、こうした状況の中でのイラつきを抑えられなかっただけかもしれません。

しかし、どんなに苦悩しようとも、親鸞会問題に口をつぐみ被害者の声を無視し批判的な報道を妨害し、内輪だけで問題を語って有権者に説明しないまま「しばた未来を国会へ!」などと煽るのであれば、やはりそれはファシズムです。悪意によるものでも、善意によって苦悩しながら行われるものでも、現れる行動がファシズムであれば、結果は同じです。

カルトの信者も、大抵の場合は悪意で偽装勧誘をしているわけではありません。おそらく柴田氏も同様だろうと思います。自分が素晴らしいと考える信仰、人々を救済できると信じている信仰、仲間と一緒に懸命に活動するやりがい。多少ズルい勧誘活動でも、この教えや団体に出会い入信した人たちもきっと幸せに違いない。そんな思いから、常識やモラルに対して鈍感になり、まじめに一生懸命活動しているつもりなのに世間から「カルト」と言われ、「やや日刊カルト新聞」なんてぶざけた名前のメディアでネタにされてしまう。

おわかりでしょうか。善意で「安倍政権打倒」のために立ち上がったはずの支援者たちの葛藤は、カルト信者が社会との関係において抱える葛藤の構造とよく似ています。『アベンジャーズ』風に言えば、

「石川県よ、これがカルト問題だ」

善意であっても目的が正しくても、用いる手段に問題があれば批判されます。そのことによって、当初の目的の達成がむしろ遠のくこともあります。柴田氏の支援者たちには同情しますが、選挙運動という社会的責任のある活動に関わる以上、この点を常に忘れないでもらいたいと思います。

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◇参考リンク
浄土真宗親鸞会被害 家族の会
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