■読売・産経・東京3紙の暴論
本紙の社説掲載後、新聞各紙がこの裁判に関する社説を掲載しました。読売新聞は、こう書いています。
【YOMIURI ONLINE 2010年03月17日】名誉棄損事件 ネットの情報も責任は重い(3月18日付・読売社説)
個人がインターネット上に書く情報でも、不確かな内容で他人の名誉を貶おとしめてはならない。
最高裁は、自分のホームページ上で外食店の経営会社を「カルト集団」などと中傷したとして、名誉棄損罪に問われた男性の上告を棄却する決定をした。罰金30万円が確定する。
決定は、ネット利用者に対する警告だ。情報の発信には、慎重な配慮と責任が求められよう。
この事件では、ネット上の表現が他人の名誉を傷つけたかどうかを判断する際、新聞などマスコミによる言論と同様の基準を適用すべきなのかが焦点となった。
過去の最高裁判例は、大勢の人が関心を持つ問題について、社会の利益を図る目的で書いたのであれば、仮に内容が誤っていても相当な理由がある場合、名誉棄損罪にあたらない、というものだ。
東京地裁は、ネット上では反論が容易なうえ、個人が発信した情報の信頼性は一般的に低いと受け止められているとして、無罪にした。個人でも可能な事実確認はしたという認定だった。
これに対し、東京高裁は、ネット上の全情報を把握し、反論するのは不可能なことや、個人がネット上で発信した情報だから信頼性が低いとは限らないことなどを挙げ、逆転有罪にした。
最高裁も高裁判決を支持し、不特定多数の利用者が瞬時に閲覧可能で、被害が深刻になりうることなど、ネット特有の事情も指摘、間違えたことに相当な理由はなかった、と結論づけた。
妥当な判断と言えよう。
警察庁のまとめでは、ネットによる名誉棄損や中傷に関する相談は年々増え、2009年は1万1500件余りに達した。
今回とは異なるが、匿名での情報発信による中傷も絶えない。
8年前にプロバイダー(接続業者)責任法が施行され、被害者が発信者情報の開示請求などができるようになった。だが、応じるかどうかは業者に委ねられており、実効性に乏しい。こうした点を改めていくことも必要だろう。
ネット利用者は、今や国民の4人に3人に上る。手軽に情報を発信できる時代だ。
しかし、情報の発信には責任も伴う。「表現の自由」と「言論の自由」は、健全な社会を守るためのものであり、今回のケースのように、根拠のない誹謗中傷を容認するものではない。
子どもの頃から、家庭や学校で適切なネットの利用方法をしっかり教えていくことも大切だ。
末尾で、今回の「平和神軍観察会」運営者・橋爪研吾氏の行為を「根拠のない誹謗中傷」と断定しています。しかしこれは事実に反します。
最高裁の決定によって高裁判決が確定したわけですが、その高裁判決では、橋爪氏の表現が「公共の利害に関する事実について」書かれたものであり「公共の利益を図る目的」であったことは認められています。この時点で、仮に表現に誤りがあったとしても誹謗中傷目的ではなかったことになります。
一審判決では、名誉棄損の違法性阻却要件(名誉棄損をしても違法とはされない条件)3つのうち上記2つは満たしましたが、「真実性・真実相当性」は認められませんでした。この点も、グロービート・ジャパンと平和神軍が一体であるとまで言えるかどうかが争点であり、無罪だった一審判決では「一定の関係性は認められるが一体とまでは言えない」との判断でした。
大雑把にまとめれば、グロービート・ジャパンと平和神軍について「関係がある」と表現するのが妥当なのか、あるいは「一体である」とまで言ってしまってよかったのかという、表現の程度問題が争われていた裁判です。裁判所も、「一体である」との主張に根拠がないと認定しただけで、グロービート・ジャパンと平和神軍の間に関係があったこと自体は認めています。
最高裁の決定書だけを読んでも、裁判のこうした経緯はわからないかもしれません。しかし上記の読売新聞の社説は、一・二審の内容にも言及しているわけですから、最高裁の決定書だけを元にした記事ではありません。その上で橋爪氏の表現を「根拠のない誹謗中傷」と断定しているとなると、恣意的なミスリードのようにすら見えます。
同様の問題は、他紙の記事にも見られました。
【産経ニュース 2010年03月18日】【主張】ネット中傷 責任とモラルを忘れるな
(略)
誰でも気軽に利用できるようになった半面、匿名をいいことに、ネット上には度を越した誹謗(ひぼう)中傷の書き込みも氾濫(はんらん)している。今回の判決によって、ネット利用者や関係者には便利さにふさわしい責任とモラルが一層、問われる。
(略)
1審の東京地裁判決はネットの個人利用者に限って名誉棄損の基準を緩めることが可能として無罪としたが、2審の東京高裁は「ネットの表現行為は今後も拡大し、信頼度向上がますます要請される」と、逆転有罪とした。
ネットの有用性は指摘するまでもないが、他人を中傷する行為は「表現の自由」をはき違えた悪質な犯罪である。不特定多数が瞬時に閲覧する点でも被害は深刻で、中高校生が自殺に追い込まれるケースすら起きている。
法務省の調べでは、平成20年のネット利用による人権侵害事件は前年比で23%増加した。こうした現実を踏まえても、最高裁判断は当然といえる。
(略)
『他人を中傷する行為は「表現の自由」をはき違えた悪質な犯罪である』として、全く違うタイプの問題事例を引き合いに出し、「こうした現実を踏まえても、最高裁判断は当然といえる」とまで言っています。暴論としか言いようがありません。
【東京新聞名 2010年03月18日】【社説】ネット書き込み はびこる中傷への警告
インターネットの書き込みも、名誉棄損の基準は新聞などと同等だ-。最高裁の初判断は、根拠のない中傷などが氾濫(はんらん)する現状への警告だろう。情報の発信者もあらためて責任を自覚してほしい。
(略)
背後には無数の被害が潜んでおり、泣き寝入りしている人々も多いはずだ。いったんネットに情報が書き込まれると、瞬時に不特定多数の者が閲覧できる状態になる。名誉やプライバシーが踏みにじられては取り返しがつかない。まさにネット時代の暗部である。
最高裁の判断は、匿名性という“あぐら”の上で、無責任な情報を垂れ流す者への戒めだ。
「根拠のない中傷などが氾濫する現状への警告」「匿名性という“あぐら”の上で、無責任な情報を垂れ流す者への戒め」といった表現も、今回の裁判の内容をはきちがえています。この東京新聞の社説、署名がありませんね。匿名のまま「匿名性という“あぐら”の上で、無責任な情報を垂れ流す」とのたまわる東京新聞。社説で体を張ったギャグとは、恐れ入ります。
■事実確認の取材もしない
今回の裁判では、ネット上で表現活動をするいち市民に対して、プロのジャーナリストや新聞・雑誌社と同等の調査義務を課すべきかどうかという判断基準も争点でした。一審はその点で、いち市民の言論に対して従来より寛容な判断を示しましたが、二・三審は逆に、いち市民に対して、プロのジャーナリストや新聞・雑誌社と同等の調査義務を課す判断をしました。こんなことではネット上で市民が存分に表現活動をすることはできません。大いに議論されるべきポイントです。
上記の新聞記事も、その点を重視していはいます。しかしいかんせん、「根拠のない誹謗中傷」かどうかという点で今回の裁判の内容を把握できていません。議論の前提となる事実が間違っていれば、その評論は全て無価値です。
ネットの表現に関する問題を評論している以上、こうした新聞記事にも公共性と公益目的はあると言えます。しかし橋爪氏の表現が、「根拠のない誹謗中傷」とまで言えるかどうかについては、一・二審の判決文や弁護人のブログを読むだけでも概略はわかりますし、弁護人や橋爪氏本人に連絡すれば説明してくれます。ところが橋爪氏に確認したところ、今回の判決について1紙たりとも事実確認の取材を申し入れてきた社はないとのことでした。
■新聞が社説でいち市民を「根拠なく誹謗中傷」
つまり上記3紙は、フリーランサーの私でさえできるような調査すらしないまま、事実と異なる記事を載せてしまったわけです。新聞のくせに。これでは、3紙の記事に「真実性・真実相当性」があろうはずもなく、橋爪氏に対する名誉棄損と言えるのではないでしょうか。
公共性のあるテーマについて公益目的によって、根拠をもって記事を書いていた橋爪氏が、表現の程度問題によって有罪とされたのを、新聞各紙は「根拠のない誹謗中傷」と断定しました。同じ論理で行けば、事実確認もないまま掲載された3紙の誤報は、間違いなく「根拠のない誹謗中傷」と言えることになります。しかも社説で、いち市民を「根拠なく誹謗中傷」するとは、恐ろしい新聞たちです。
読売・産経・東京各紙は、「新聞なんか誰も信用しないから、誹謗中傷記事を載せても名誉棄損にならない」という判例でも作りたいのでしょうか。報道の自由・表現の自由を守るためにも、どうかそんなことはやめていただきたい。
4 コメント:
今回の社説につきまして心から同意いたします。
どうもマスメディアは、自分たちこそが正確な情報を伝えていて、インターネット上の情報は不正確という誤解・偏見があるように思います。
しかし、マスメディアが裏を取らず、今回の司法判断も事実誤認をしているというのが、今回露呈したわけです。マスメディア関係者は自省すべきではないでしょうか。
あわせて、インターネットなどによってカルト等の危険性を訴えるという公益性は、保護されねばならないと思います。マスメディアが保身に走り、カルト団体の実態を伝えない中で、カルト側が訴訟をちらつかせ、実際に金をつぎ込んで裁判を起こし、カルト被害者の叫びを封じる方向に、今回の最高裁の判断は利用されてしまいます。
マスコミには、カルト団体による被害を広く伝えるのみならず、被害者やその周辺が勇気をもってカルト被害を訴えている手法(インターネットなどを含む)について、理解して欲しいものです。
毎日新聞のネット記事も「中傷」と言っていますね。「誹謗」はないけど。
そして、見出しは「ネット名誉棄損:ネット上も要件同じ 「深刻な被害ある」--最高裁初判断」で、
「個人とプロの報道機関」という点でなく、「ネットとそれ以外の手段」というところに中心を置いていますね。
間違いではないにしても、この事件の本質ではない、、というか、事実から結論を出すのでなく、書いた人の関心に合う事例(部分)を持ってきたのでしょう。
そのようなあり方を否定はしませんが、新聞は客観的に事実そのものを伝えるものではなく、「半分しかない」「半分も残っている」のような価値観が必ず入るものだと思いながら読む必要があります。
以前、わが子が通っていた保育園に取材があって、「~~ちゃん(7か月)は、入園時、おもちゃで遊ぶことを知らない子でした」ではじまり、保育園の取り組みでおもちゃで遊べるようになったという文章が掲載されていました。間違いではないとはいえ、入園時3か月になったばかりの子を捕まえて・・とあきれ果てました。単にストーリーに都合のいい例だと思って取り上げたんだろうと、新聞記事ってそんなものかと思いました。(^^;)
各新聞社に対して名誉毀損訴訟を起こせば勝てるのではないかと本気で思っています。
刑事告発だったら、新聞からの被害を受けた当人じゃなくてもできるんですよね。
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