公判検事「厳重処罰が相当、罰金10万円」弁護団「建造物侵入罪は成立しない、無罪」ジャーナリストの建造物侵入裁判が結審

最終弁論に臨んだ被告人と弁護団（法廷画家“BAN苦死慰”氏作）

取材目的での幸福の科学の一般公開施設立入りが建造物侵入に問われたジャーナリスト藤倉善郎氏（本紙総裁）。2月17日、東京地裁での公判において検察による論告・求刑、弁護人の最終弁論、被告人の最終陳述が行われ裁判は結審、来月中旬には判決が言い渡される。今回も謎の法廷画家の全面協力を得て傍聴取材レポートを掲載する。

　今回も法廷前には20人以上の傍聴希望者が並び、傍聴席は満席となった。幸福の科学関係者は教団弁護士2人を含めいつもの4人。

◆検察官による論告・求刑

　今回から公判検事が交代となり、女性検察官が早口で意見を読み上げていく。

「本件公訴事実は取り調べ済みの関連各証拠により、証明は充分」「適用違憲ではない」「メディアへの取材対応では広報局局長の判断が被害法人・幸福の科学における最終判断とされ、代表役員会理事会等の最高意思決定機関の承認を得る必要はなく事後報告をすれば足りることとされている。取材対応等の指示・決定の内容は広報局の指示決定が被害法人の指示内容である。出入り禁止等の決定の各事務は広報局が全面的に掌握し、被害法人の意思を最終決定し被害法人の意思として対外的対内的に通告する役割は広報局が担っていた」「被告人への出入り禁止は広報局が決定した有効なもので被害法人の意思であることは明らか」

　犯行状況への意見表明の際には「胸ポケットに隠したスマートフォンを用いて録音録画を行いながら～」と被告人の“隠し撮り”行為を強調。一方、検察側の証人である幸福の科学職員3人については「いずれも誠実に答えていたためその信用性は高い」と持ち上げた。

論告・求刑を行う本公判初登場の女性検察官
（法廷画家“BAN苦死慰”氏作）

　弁護側の各主張を「違法性阻却事由に該当しない」と取り合わず、「被告人の行為は可罰的違法性を備えているものであるから検察官の公訴権濫用には該当しないことは明白」と検察側の公訴権濫用についても否定し「被告人弁護人の主張はいずれも失当であり被告人には建造物侵入罪が成立する」と結論付けた。判例として挙げたのは、過去の建造物侵入事件や報道機関の取材行為が刑法35条の正当業務行為に該当するか争われた西山記者事件など。

　意見表明の終盤、藤倉氏について「確信犯として犯行に及んだ」「犯行対応は悪質」「宗教施設に対する敬意と礼節を欠く態度は明らか」「被害法人は厳罰・厳重処罰を望んでいる」「再犯可能性は極めて高い」「これまでも同様のことを繰り返している」「自己の信念に基づいて取材活動の一環として行っていると言い、反省も見られず今後も取材のためと称して被害法人の施設等に立ち入るなど同種の犯行に及ぶ危険性は極めて高い」と畳みかけた検察官。情状として「被告人に前科が無いなどの被告人に有利な事情を考慮するとしても」と前置きの上「厳重処罰が相当」と言及。求刑を「被告人を罰金10万円に処するのが相当」とした。

◆弁護団が最終弁論リレーで逆襲　

　対する弁護団の最終弁論。先陣を切ったのは主任弁護人で弁護団長の紀藤正樹弁護士。

「建造物侵入罪は成立しない。無罪である」と結論を述べた上で、憲法的視点からの意見表明を展開。

「本件は、ジャーナリストの代替性のない取材活動に対して建造物侵入が問われた初のケース」「自己に不都合な取材を拒否するといった安易な管理権者の管理権限を容認するような法解釈とならないよう現行憲法適合的な合憲的な規範を提示する必要と責務がある」と指摘し「現行憲法の規範に調和するよう解釈を検討すべき」「解釈を提示できなければ適用違憲とすべき事案」とした。

弁護団長・主任弁護人の紀藤弁護士（法廷画家“BAN苦死慰”氏作）

　そして、法規解釈の点だけでなく手続き保障と立証責任の観点においても「最大限、表現の自由への尊重と配慮をすべき」と言及、ここから各弁護士がリレー方式で一人ずつ被告人が無罪に該当する理由を述べていく。

◆まずは認定事実の提示

　佐々木大介弁護士は「証拠によって認定できる事実」として、初転法輪記念館の客観的状況や管理体制、取材に至る経緯、現場到着後の行為形態、同館4階への立ち入りの形態、4階内部状況、内部での行為形態、同館職員五明氏とのやり取りを示した。

◆「侵入」に該当しない

　角野太佳弁護士は「被告人の行為は刑法130条前段の『侵入』に当たらない」として「侵入」の意義を判例や意思侵害説から説明、近時の裁判例や判例における「侵入」の判断の枠組みを示し、「『侵入』に当たるかを慎重に検討すべき」とした。

弁護団の角野弁護士（法廷画家“BAN苦死慰”氏作）

　さらに、幸福の科学総務部長・三浦英俊証人に初転法輪記念館の管理権が無いこと、管理権者が三浦だとしても判例や本件の経緯から侵入に当たらないと言及した角野弁護士は「立入りの形態、目的を詳細に検討し総合的な判断をしたうえで結論を導くべき」と述べ、「建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などから見て被告人の立ち入り行為を管理権者である幸福の科学が容認していなかったと合理的に判断することはできない」とまとめた。

　そして、藤倉氏が「侵入」事実に対する認識認容を欠いていたことを示し「建造物侵入の故意が無い」とした。　

◆幸福の科学は法人の意思として立ち入り禁止決定していない

　久保内浩嗣弁護士は、まず幸福の科学サイドの「意思決定」の矛盾を突いた。

「幸福の科学は法人の意思として施設等への被告人の立入りを禁止する旨の決定をしていない」「広報局の意思決定は幸福の科学の意思決定ではない」「大川隆法の意思決定こそ幸福の科学の意思決定である」と論を進め、大川隆法が幸福の科学の総裁かつ代表役員であることを示した上で幸福の科学の規則における『総裁』についての定めを読み上げた。

・この法人の宗教上の最高指導者たる教主を総裁という

・総裁はこの法人を統括する

・総裁の任期は終身とする

・次代総裁は現在の総裁があらかじめ指名した者をもって充てる

・総裁は代表役員及び責任役員を選任、解任する権限を有している

　そして、大川隆法が「総裁及び代表役員として幸福の科学を総理及び総括し法人の事務や責任役員の人事について最終的な決定権限を有している」「他宗教への対応、訴訟提起、給与、人事、書籍、組織体系について職員等に直接、指示を出している」と指摘した。

　幸福の科学の組織体系については「各機関の職務分掌を定める規程や組織図は存在しない。少なくとも本件の証拠上存在しない」と言及、「公判前整理手続において弁護人は検察官に対し組織体系、各機関の職務分掌に関する文書につき証拠開示を求めたが『存在しない』との回答だった。法人化する前すら組織体制図は存在した。巨大組織となった幸福の科学において組織体制や各機関の職務分掌に関する文書が存在しないことなどあり得ない。単純な建造物侵入罪の成否という問題にとどめたい検察官の意向と大川隆法が本件に関与したことを認めたくない幸福の科学の利害が一致し、幸福の科学が文書の提出に協力せず、検察官が強く提出を求めることも確認することもなかったと考えるのが自然」と検察側の対応を非難した。

　三浦、渡邊両証人についても「両者の証言は信用できず大川隆法の関与を否定するため虚偽の証言をした」と指摘。教団の意思決定過程の不明さを示した。

弁護団の久保内弁護士（法廷画家“BAN苦死慰”氏作）

　久保内弁護士は、藤倉氏への通告書の作成名義が広報局長ではなく幸福の科学グループ広報部長や幸福の科学法務室であったことを挙げ、広報局と同局長に権限がないとした。

「立入り禁止決定の権限が広報局長にあったとは証明できず、大川隆法が立入り禁止をした事実はない」

　そして「幸福の科学として立入り禁止にする決定をしたことも証明できていない。法人としての意思決定に基づくものではない」とし、藤倉氏の立入りを「初転法輪記念館の管理権者の意思に反するものとは言えず、幸福の科学の組織、意思決定権限等の視点からも『侵入』には該当せず無罪」と結論付けた。

◆正当業務行為、可罰的違法性、公訴権の濫用、適用違憲

　御船剛弁護士は、藤倉氏の取材の意義を「幸福の科学は宗教法人の中でもとりわけ取材・報道の必要性が高く、幸福の科学に関して数少ない報道を行うことができるジャーナリストである被告人の取材報道活動は最大限尊重されるべきである」と説明。

　正当な取材活動の範囲を逸脱するものとされ正当業務行為が否定された西山記者事件の事案とは異なり、本件が正当な取材活動の範囲内の行為であることは明らかであり、正当業務行為（刑法35条）に該当することから「違法性が阻却されるべき」とした。

　西山記者事件を検察官・弁護団双方が提示したことになる。

弁護団の御船弁護士（法廷画家“BAN苦死慰”氏作）

　他の観点からも判例を示して違法性阻却事由を挙げる御船弁護士。

「被害程度等の事情刑事罰に処するに値する程度の違法性を具備しない行為については可罰的違法性を欠くものとして違法性が阻却されるものというべき」「被告人の立ち入り行為は可罰的違法性を欠くものであり違法性が阻却される」

　さらに本件の公訴提起を検察官の公訴権の濫用に該当すると指摘。

「本件は不起訴または起訴猶予にするのが相当な事案。ところが、幸福の科学の意向を忖度した担当副検事が捜査段階において正当な取材目的での立ち入りや　立入りが極めて穏当に行われていたことを軽視、充分な捜査や法的検討をしないまま起訴に至ったもの。公訴提起自体、検察官の訴追裁量を逸脱するもので控訴権濫用に当たり公訴棄却の判決がなされるべき」

　そして適用違憲についてはこう論を重ねた。

「被告人の行為は取材の自由として憲法上一定の保護を受ける権利」「国民の知る権利に奉仕する憲法上優越的地位を占める極めて重要な権利」と前置きし「憲法上の保護を受ける正当な取材活動に基づき、何ら実害も生じさせない立ち入り行為を犯罪行為として刑罰に処することは明らかに法的権衡を失する。憲法21条の取材の自由を過度に侵害する結果となる。本件で刑法130条前段を適用して被告人の刑罰を処することは適用違憲となるものというべきである」

◆「被告人の有罪判決は決して許されるべきではない」

　最終弁論の締めくくりとして佐々木弁護士が結語を述べる。

「インターネットやSNSの爆発的な普及・発達に伴う情報化社会の高度化が進んでいる中での、表現の自由、ひいては国民の知る権利に奉仕することになる取材の自由に対して、人権保障の砦である裁判所が如何なる基準で如何なる判断を下すか、今後のリーディングケースとなり憲法問題を含む極めて重要な意義を有する事件である」「判決の結論次第では、国民の表現の自由、ひいては知る権利にとって大きな脅威となるべき事案である。だからこそ本件の第1回公判から現在まで、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発出され、裁判所への外出自体が自分や家族の生命や身体へのリスクがあるにもかかわらず、多くの市民が重大な関心を持って、本件の傍聴を続けてきた」「本件の審理を終えるにあたり、本件においては、従前の判例法理に捉われるのではなく、インターネットやSNSの発達に伴って、玉石混交の情報が飛び交う現代社会において被告人のような真実を追求するジャーナリストによる取材活動こそが、国民の知る権利に必要不可欠であり、決して、幸福の科学による抽象的な管理権侵害を理由としてこれを制限すべきでないこと、本件における侵入に該当するかの判断、違法性の有無について、このような情報化社会の変化を考慮すべき」

弁護団の佐々木弁護士（法廷画家“BAN苦死慰”氏作）

「いかなる点においても被告人に建造物侵入罪は成立しない、明らかに無罪である。本件事案の持つ、憲法上、人権上、我が国の歴史上も重大な意味に真摯に耳を傾けていただきたい」

◆被告人・藤倉氏が最終陳述

　裁判官に促され、被告人・藤倉氏が正面に立ち最終陳述を行った。藤倉氏は冒頭、傍聴人・支援者・弁護団への感謝を述べた後、「必ずしも影響力があったり著名なジャーナリストというわけではない自分に、これだけたくさんの人が支援してくれたり8人もの弁護士がついてくれた」理由としてこう見解を述べた。

「今回の事件が有罪にされてしまうと、私個人だけではなく幸福の科学というテーマだけではなく、ジャーナリストたちの基本的な取材手法というものが萎縮を余儀なくされてしまうとの懸念があるからではないか」

最終陳述を行う被告人・藤倉氏（法廷画家“BAN苦死慰”氏作）

　裁判官を見つめながら陳述を続ける藤倉氏。

「建造物侵入事件の根拠は、正しさが認められた週刊新潮の記事によって出入り禁止が通告されたこと。それが有罪となると、例えば特定の政党が特定のメディアや記者の書いた事実に基づいた報道が気に食わないからと言って特定の記者やメディアを記者会見から立ち入り禁止にするという決定をした上で記者が会見場に入ってきたら警察を呼んで逮捕させる、あるいはあとから刑事告訴や被害届を出して懲役刑や罰金刑を課す形ができてしまうことになる。これは自由で民主的な社会の在り方とは矛盾することは明らかなので多くの方が危機感を持ってこの事件に関心を持ってくれたと思う」

　そして最終陳述をこう締めくくった。

「裁判所には自由で民主的な社会の助けになるような法律運用の道筋を示していただきたい」

◆次回は判決言い渡し

　以上で最終手続きが終了し、裁判は結審した。次回公判は3月15日、いよいよ判決言い渡しが行われる。

◆クラファンも継続中

　刑事被告人にされた藤倉氏を支援するためのクラウドファンディングも行われている。詳細は以下。

クラウドファンディングサイト・MOTION GALLERYクラウドファンディング・プラットフォーム『ジャーナリストが一般公開施設を取材したら建造物侵入罪!?　取材・報道の自由を守るための刑事裁判』

取材を行う筆者(手前)、ウトウトする村田らむ氏、
その奥は教団職員弁護士2人（法廷画家“BAN苦死慰”氏作）

村田らむ氏と教団職員の守護霊が幽体離脱
（法廷画家“BAN苦死慰”氏作）

公判日程

東京地裁平成30年刑（わ）第1508号

建造物侵入事件 被告人 藤倉善郎

東京地裁715号法廷

 

第1回（終了）

2020年12月22日13:30～15:30

冒頭手続及び証拠調べ手続

 

第2回（終了）

2021年1月8日13:30～17:00

証人尋問手続（幸福の科学職員2名）

 

第3回（終了）

1月19日10:00～12:00

証人尋問手続（幸福の科学職員＝元広報局長）

 

第4回（終了）

1月26日13:30～17:00

被告人質問

 

第5回（終了）

2月9日13:30～17:00

証人尋問手続（宗教社会学者）

第6回（終了）

2月17日13:30～15:45

論告・求刑、最終弁論、最終陳述

 

第7回

3月15日

判決言い渡し

※事件・裁判の経過や支援の詳細は『幸福の科学取材で刑事被告人にされた藤倉善郎氏を支える会（幸藤会）HP』を参照

～取材協力～

法廷画家“BAN苦死慰”氏

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