【47BEWS 2010年04月09日】アレフが都公安委に苦情 長官銃撃事件、HP掲載で
公訴時効が成立した警察庁長官銃撃事件で、オウム真理教の主流派アレフは9日、「犯行は教団の組織的なテロ」とする捜査結果を警視庁のホームページ(HP)から削除するよう同庁に要請したが受け入れられなかったとして、警察法に基づき東京都公安委員会に苦情を申し立てた。
この日、都内で記者会見したアレフの荒木浩広報部長は「掲載期間は30日間となっており、既に10日間経過している。(裁判所に掲載の差し止めを求める)仮処分申請など、ほかの対応も検討したい」と話した。
公安委に提出した文書では、捜査結果の公表について「(教団側の)反論の機会を奪った状態で犯人扱いしている」と主張。「(教団の関与を)明確に裏付ける証拠や証言は皆無」と指摘した。
2010/04/09 17:32 【共同通信】
アレフ側は、東京都公安委員会への苦情申し立てより前に、警視総監宛に抗議文書を送付しているそうです。その内容はこちらです。
【Aleph広報部 2010年03月31日】抗議並びに削除要請書
本年3月30日に警察庁長官銃撃事件(1995年3月30日発生)の公訴時効が成立したことを受けて、同日午前、貴庁は記者会見を開き、「事件はオウム真理教のグループが教祖の意思のもと、組織的・計画的に敢行したテロだった」と断定する見解を公表しました。貴庁はその中で、オウム真理教の麻原彰晃元代表を実名で名指しして事実上の首謀者と見なし、また、教団元信者ら8名についても匿名で示し、各人の行動や会話内容等を記した上で、本事件の「容疑グループ」と表現しています(「警察庁長官狙撃事件捜査結果概要」)。
しかし、本事件は、実行犯はおろか、一人の容疑者すら特定するだけの証拠が得られなかったがゆえに、起訴に至ることなく、上記のとおり公訴時効が成立したものです。
にもかかわらず、刑事手続に依ることなく、当事者らの反論の機会を封じたまま、特定の個人・団体を犯人視する見解を公表することは、およそ前例のない、職権を濫用した重大な人権侵害であり、関係者らの名誉を著しく毀損する行為といわざるを得ません。しかも、公表された見解のどこを見ても、麻原元代表や8人の元信者らが、本事件に関与したことを明確に裏付ける証拠や証言は、全く皆無です。
そもそも、本事件については、容疑者不詳のまま「教団の組織的関与の可能性が高い」と見立てた貴庁による初動捜査の失敗が、当時の捜査責任者らによっても指摘されています。
しかし、今回貴庁が公表した見解は、当初のこの見立てから一歩も抜け出ていないばかりか、さらにこれを断定的に結論づけたものです。これは、時効を迎えるに至ってもなお、本事件の捜査の過ちが警察内部で何ら教訓化されることなく、逆に正当化されていることを物語るものであり、社会に大きな禍根を残す結果になったというほかありません。
さらに貴庁は、「公益性」を理由に上記見解を記者会見で公表したばかりか、貴庁のウェブサイト上に本日(3月31日)これを掲示し、1カ月にわたって一般にも公開するとしています。
当団体としては、貴庁に対して、法令上の根拠を欠いた不公正な自己正当化に強く抗議するとともに、ウェブサイト上の当該記事を即刻削除し、取り返しのつかない人権侵害等をもたらす見解の公表を直ちに取りやめるよう、厳に要請します。
なお、貴庁において、速やかに適正な対処が見られない場合は、当団体として、必要な法的措置を検討せざるを得ないことを予め申し添えます。
時効に際して警視庁が「オウムの犯行」と断定する発表を行ったことについては、権力の各御用メディアですら、社説で激しく批判しています。
「法治国家のルールを大きく逸脱した行為」(朝日新聞)
「どんな団体であれ、裏付けのない罪をかぶせていいわけがない」(読売新聞)
「刑事手続きのルールを踏み外している」(毎日新聞)
長官銃撃事件について、実際にオウム真理教の関与があったのかどうかはわかりません。しかしいずれにせよ、立件できなかったのに「オウムがやった」と発表する警視庁のやり方は不可解です。その点では、アレフの抗議は正論でしょう。
■危惧すべきは「法治国家のルール無視」だけではない
新聞各紙は、これを法治国家のルールの問題として批判しています。しかし問題はそれだけではありません。今回の警視庁発表はアレフに対して、「社会からの不当な攻撃」と「自らの正当性」をアピールする機会を与えてしまった点も、重大な問題ではないでしょうか。
1995年の教団への強制捜査、教祖をはじめとする幹部の逮捕以降、2000年までオウム真理教は事件を教団によるものとは認めず、被害者への謝罪も賠償も拒んできました。「麻原のハルマゲドン予言」を信じて、強制捜査や麻原逮捕でさえ「宗教弾圧」と捉え組織を維持してきたわけです。その後、方針を転換して謝罪や賠償を行いましたが、教義対立から上祐派が「ひかりの輪」として離脱して以降のアレフは、教義の上では「麻原(麻原彰晃)回帰」を強め、さらに教団運営では「麻原一族」の影響を強めていきました。
昨年、アレフは、団体規制法に基づく観察処分の更新は違法だとして、国を訴えています(本紙:アレフが観察処分取消を求めて国を提訴)。昨年3月にオウム真理教の破産手続きが終結してから、オウム後継団体の「ひかりの輪」は被害者側との賠償契約を行いましたが、アレフはいまだ契約していません。現在のアレフの姿勢は、95~00年までのオウム真理教を彷彿とさせます。
この状況で、法治国家のルールを無視してまで警視庁が「長官銃撃はオウムがやった」などと断定すれば、アレフにしてみれば「我々を攻撃する社会の方こそ間違っている」というアピールに利用するに決まっています。日ごろメディアの取材を受けないアレフが、今回の警視庁発表に対する抗議では記者会見を行いました。このことからも、アレフが今回の警視庁発表への抗議をチャンスとしてしっかり活用していることがうかがえます。
当然、対外的なアピールにおいてだけではなくアレフ内部においても、この件は「教団ではなく国家権力の方が間違っている」ことを示す一例として、現在の信者たちの内向的な結束を高めることに利用されるであろうことは、想像に難くありません。警視庁を批判することで、結果としてアレフを擁護するかのような論調にならざるを得なくなっている新聞各紙の社説も、アレフにとっては利用価値がありそうです。
■恥の上塗り
警視庁は、今回の発表の理由を「公益性があると判断した」「監視対象団体であることを考慮したと」と説明しているようです。オウム真理教の後継団体が「いまだに危険なのだ」という印象を社会に与えることで、警戒を喚起するという公益性を指しているのでしょう。その点については確かに公益性がありそうに思えますが、法治国家のルールを無視する発表だけでも問題があるのに、それによってアレフを元気づけてしまうことに公益性があると言えるのか。警視庁は、こうしたリスクをもっと自覚すべきでした。
長官銃撃事件の捜査ミスは警視庁にとっての汚点でした。今回の発表は、まさに恥の上塗りです。
2 コメント:
「いくつかの有力な情報はあったが容疑者を確定するには至らなかったのは残念」くらいに言っておけば、誰もが「ああオウムだな」と思ってくれただろうにね……。
今回の警視庁の違法な発表は、社会と教団との溝をさらに広げ、この教団の危険性をさらに高める可能性があると思います。
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