2010年9月20日月曜日

次世紀ファーム研究所事件で東京高裁が和解勧告

岐阜地裁に出廷した際の
堀代表(2008年4月21日)
 8月26日、東京高等裁判所で、次世紀ファーム研究所(真光元神社)事件の口頭弁論が開かれました。2005年に、糖尿病の少女が施設内に宿泊中、インスリン注射を打たずに死亡した事件で、少女の両親が堀洋八郎代表らに損害賠償を求めていた訴訟です。この日、東京高裁は和解を勧告し、弁論は1日で終結しました。

■2005年の死亡事件をめぐって

 この事件は2005年、糖尿病を患っていた少女(当時中学1年生)が岐阜県内の「次世紀ファーム研究所」に、インスリンを持参せずに宿泊。当時信者だった母親によると、堀代表は神通力や真光元の超自然的な効能を強調し、糖尿病を含めたあらゆる病気が治るなどと宣伝していたといいます。少女の滞在中も、実際に堀代表が少女の手を握って「パワーを送る」などしていたそうです。

 しかし糖尿病患者にとって必須であるインスリン注射をしていなかったてめ、少女は滞在2日目には嘔吐、発熱、食欲不振などの体調不良を訴え、滞在4日目に亡くなりました。

 これに対して両親は、

・堀代表らは、堀代表と真光元さえ信じていれば糖尿病を含めたあらゆる病気が治るなどと宣伝していた。
・両親は、被告堀と真光元神社に過度に依存することを余儀なくされ信じ込まされていた。
・堀代表らはインスリンが不可欠であることを認識しながら、薬指導等を行う注意義務を怠った。
・少女の体調が悪化した際にも病院に搬送しなかった。

 ことなどを理由に、堀代表らを提訴。約5000万円の損害賠償を請求していました。

 これに対して今年3月、東京地裁は両親の請求を棄却しました。判決で東京地裁は「眞光元神社の教義や被告堀の言辞が、原告●●(原文は母親の実名)を始めとする信者らに対し、病気治療につき、被告堀ないし真光元に過度に依存する誤った期待を抱かせる可能性のある不適切なものであったことは否定できない」としつつも、堀代について「医療の専門知識のない被告堀が、1型糖尿病の病態等に関するある程度詳細かつ具体的な説明もなく、糖尿病ないし小児糖尿病という疾病名などから、インスリンを数日欠かせば死に至る危険性が高いという1型糖尿病の病態や、●●(少女の実名)がインスリンを欠かせない重篤な糖尿病患者であることなどを認織することは困難であった」などとしていました。

■控訴審では和解勧告

 両親は、過去の公害や薬害訴訟を例にとり、改めて堀代表らの責任を問い控訴しました。控訴理由書の中で両親側は、こう主張しています。

【控訴理由書 2010年08月17日】
(略)堀被告は宗祖や薬学博士を標榜する者であり、薬事法に違反する方法によって健康食品を組織的に販売し続けてきたものであり、しかも、宗教的言辞を弄して自らに病気を治癒するパワー(神通力)がある旨喧伝して、難病に悩む患者を誘い込んでいたのであるから、そのようなそ沿いに応じて山の家に来訪した●●(少女の実名)のような患者を自らの管理下の施設に入れ、看護するに際しては、病状・病歴等聴取義務を負うことは明白である。
 そして、被控訴人堀の過失責任の判断に当たっては、そのような病状病歴等徴収義務を前提として予見可能性の有無を判断すべきである。
(略)
 しかし8月26日の弁論で東京高裁は和解を勧告。弁論は1日で終結しました。少女の母親は「なんとか最後まで戦って判決をもらいたい」と語っていました。

 9月上旬に、和解の可能性も含めて双方で協議が行われており、判決予定日の10月28日までには、和解か判決かが判明すると思われます。

■疑似医療問題における最悪のケース

 現在、疑似医療「ホメオパシー」が社会的に問題視され、日本学術会議のほか日本医師会など医学関連の団体がこぞってホメオパシーを医療現場から排除しようとしています。このきっかけとなったのは、昨年、山口市のホメオパシー医学協会の認定ホメオパス(ホメオパシー療法師)が、乳児に必要なビタミンKを投与せず、ホメオパシーのレメディ(砂糖玉)を投与して死なせたとして、乳児の母親から提訴された一件でした。

 ホメオパシーは単なる砂糖玉であるため、基本的にはホメオパシーそのもので死ぬ可能性はほとんどないと思われます。ここで問題視されているのは、ホメオパシーを信仰するあまり通常必要な医療を否定・拒否することによって死につながるケースが実際に起こったという点です。

 堀代表の「パワー注入」と真光元の飲用だけで病気が治るかのように宣伝し、糖尿病患者にインスリンを投与させず死亡させた次世紀ファーム研究所の事件も、ホメオパシーの乳児死亡事件と似た構図です。

 しかしホメオパシーのケースと大きく異なる点もあります。ホメオパシーで乳児を死亡させたとされるのは助産師という国家資格をもった医療従事者だったのに対して、次世紀ファーム研究所の堀代表は医療従事者ではありませんでした。堀代表は、「薬学博士」を名乗っていましたが、彼がその学位を取ったとされるパシフィック・ウェスタン大学は、カネで学位を買えるディプロマ・ミル(学位工場、ディグリーミルとも)です。同じディプロマ・ミルで学位を買った人物には、法の華三法行の福永法源もいます。

 こうした肩書と「神通力」や「真光元」の効能をうたって、自らの能力を信者たちに信じさせて人を死なせてしまったのが、次世紀ファーム研究所事件です。本紙は<【社説】“疑似医療”という概念の再確認を>で、ホメオパシーについて<医療現場からの排除だけでは解決しない>と書きました。それは、ホメオパシーも含めた疑似医療が医療現場だけで行われているものではなく、医師でもない者が病気を治せるかのように他者を錯覚させて疑似医療行為を行うケースが珍しくないからです。次世紀ファーム研究所は、その典型的なケースでしょう。

 東京地裁が堀代表に「医療の専門知識」がないことを理由に、両親の請求を棄却したのは理解に苦しみます。専門知識がないのであればなおのこと、病気を治せるかのような期待を抱かせて疑似医療行為(法律上は医療類似行為といいます)を行うのは悪質なのではないでしょうか。

■次世紀ファーム研究所と眞光元神社、いまも活動中

 眞光元神社は現在も活動を続けており、次世紀ファーム研究所も同様です。次世紀ファーム研究所は、公式サイト上で今回の訴訟の一審判決について<民事裁判 全面勝訴>と題し、<亡くなられた女の子のご冥福を改めてお祈りし、ご遺族の皆様には心からお悔やみ申し上げます。この度の東京地方裁判所の判決は、正しい事実に基づいた正当な司法判断と考えます。>といった文章を掲載しています。


ファーイースト株式会社より
  「真光元」も「タイファ」と名称変更して販売され続けています。いちばん高いものは150g入りで8万3000円(税込)です。ホメオパシーの高額な砂糖玉(日本ホメオパシー医学協会のもの)でさえ1.5gで580円(150gなら5万8000円)ですから、タイファがいかに高いかわかります。

 真光元の販売会社は少女が死亡した当時「万貴株式会社」を名乗っていましたが、現在はファーイースト株式会社と名称変更。もともと堀洋八郎氏が代表でしたが、現在の代表は堀和子氏です。

 被害者側は「真光元(しんこうげん)被害者の会を結成し、死亡事件に関する情報発信を行っています。

11 コメント:

tambo さんのコメント...

堀代表と言う人が、医療従事者でないといっても、
「薬学博士」と名乗っていれば、素人は、医学の専門家かと思ってしまいます。
だから、大して違わないと思います、国民感情からすれば。

裁判所の言うように、医学の知識がないから無罪・・というなら、知識がないのにあるように思わせたからウソツキノ罪があるんじゃないでしょうかね。

裁判所は、騙された方が悪い・・という立場に立っているんでしょうか?

匿名 さんのコメント...

「お医者さん」に預けた子供が亡くなったら、お医者さんのせい。
「お医者さんのふりをした一般人」に預けた子供が亡くなったら、預けた親のせい。
(「お医者さんのふりをした一般人」はお咎めなし)

…こんな理屈がまかり通るとしたら、恐ろしい話ですね。
インチキ医療・詐欺のやりたい放題(しかもリスクなし)です。怖い。

藤倉善郎 さんのコメント...

tambo さん
> 裁判所の言うように、医学の知識がないから無罪・・というなら、
> 知識がないのにあるように思わせたからウソツキノ罪があるんじゃ
> ないでしょうかね。

 そうですね。薬学博士という肩書についてだけではなく、宗教的な面でも、糖尿病を治す能力が実際にはなかったことがハッキリしたわけですから、治せないのに治せるかのように装った堀代表の責任が問われてしかるべきだと思います。


匿名さん(2010年9月21日12:17)
> 「お医者さん」に預けた子供が亡くなったら、お医者さんのせい。
> 「お医者さんのふりをした一般人」に預けた子供が亡くなったら、預けた親のせい。

 これに似た歪みは、↓の記事で書いた新健康協会の事件にも見られますね。
 http://dailycult.blogspot.com/2010/07/blog-post_17.html

 病気を治したいと考える人が誤った信念によって死に至ってしまったとき、その誤った信念を植えつけた側の責任がなぜ問われないのか、ぼくには不思議でなりません。

匿名 さんのコメント...

中学生の女の子が亡くなった事件でしたね。
可哀想だと思いました。お母さんが何を信じるにしても
重度の糖尿病を抱えている、インシュリンがなければ死んでしまうことを知っていながらロングステイの予定の子供をインシュリンを持たせないで預ける神経が信じられない。
普通心配じゃないかな。これがなかったら打ちの子はヤバイとかキャンプに行ったって虫除けスプレー持って行くでしょ。死ぬわけじゃないけど蚊に刺されるの嫌だから。それが命に関わる重要なものなのに予備もしなかったってどういうこと?と疑問です。万が一って言葉があるじゃない。なにがあってもいいように対応できるように予測をたてて準備するのが普通だと思う。遠足の日晴れていてもカッパを持っていく感覚?
他人にそんな子供を預けるならなおさら。命に関わることなのだから。
毎日虐待のニュースが耐えませんね。お母さんが中3の男の子をトイレに9日間監禁、父親が小学生の娘を虐待でアザ、子育てしない親ほったらかしなど等、インシュリン携帯させないでこの子を預けたらどうなるか想像つくはずなのに。残念です。
お父さんも、なんでお前はインシュリン持っていかなかったって思うよね?

匿名 さんのコメント...

このお母さんは多分、娘が病気であることだけが本当に許せなかった、病気でさえなければ良かった、のだと思う。
裁判を起こしてるの、自分の愛情の希薄さをごまかすため、ていうか、自分のせいだということを受け入れたくなくてやってるのかもよ。裁判所が堀なんたらを有罪にしてくれたらそれでいいの。
こんな親の元に生まれてこないように選べないなんて、人間に生まれてくることって本当になんか、懲役かと思うよ。

藤倉善郎 さんのコメント...

匿名さん(2010年9月25日2:46)

 真光元や堀代表の「神通力」で糖尿病を治せるのではないかという期待を抱かされた上での話なので、一般的な虐待事件と事情が全く違います。
 次世紀ファーム研究所のような疑似医療カルトでは、子どもを殴ったり放置したりする児童虐待のケースと違って、病気を治せるかもしれないと考えた結果、医療ネグレクトが起こってしまうという構造です。
 事情を知らないと感覚的には信じられないかもしれません。でも、通常の医療で完治できない病気を抱えている子どもを何とかして直したいという思っているときに、それを治せると主張する人物や団体にからめとられてしまったときの親の心理状態を、少しでもいいので想像してみてもらえないでしょうか。
 そうすれば、その心理状態をリアルに想像できなくても、この事件が子どもを監禁したり殴ったりする虐待事件と全く違うということくらいはわかるでしょう。少なくとも、こうした形で子どもを亡くしてしまった親に向かって、子どもを監禁したり殴ったりする虐待事件と同一視する意見を吐くことがいかにむごいことかくらいは、理解してほしいところです。

藤倉善郎 さんのコメント...

匿名さん(2010年9月25日21:56)
> このお母さんは多分、娘が病気であることだけが本当に許せなかった、
> 病気でさえなければ良かった、のだと思う。
> 裁判を起こしてるの、自分の愛情の希薄さをごまかすため、ていうか、
> 自分のせいだということを受け入れたくなくてやってるのかもよ。

 何を根拠に、そんな想像ができるのでしょうか。ぜひその根拠を示してください。

 ぼくは母親に取材する中で、こうした疑似医療カルトの問題と責任の所在を訴訟によって明らかにし、後の被害の予防・救済につながるようにしたいという意図を感じていますし、母親はそういった姿勢を言葉でも表明しています。もしこれが親の自己責任だけで片付けられてしまうなら、今後もこうした疑似医療カルトはやりたい放題じゃないですか。
 傍で見ていると、この裁判を通じて当時の状況や経過を振り返り続けること自体が、特に母親にとってはとても辛そうに見えます。体調も崩しているようですし。
 それでもなお訴訟を続けており、この訴訟が実際に社会的な問題意識を伴ったものであることから、これが単なる自己満足的な意図の訴訟のようには全く見えません。

 なぜ堀代表らに責任があるとされているのかについて、ぼくは上の記事できちんと書いています。この記事を読んでなぜ匿名さん(2010年9月25日21:56)が、事件を母親のエゴときめつけて罵ることができるのか、ぼくには理解できません。匿名さん(2010年9月25日21:56)のコメントには、記事の内容についての反論・異論は一切書かれておらず、記事に書かれていない事実関係が提示されているわけでもありません。事件を母親のせいだと言い切れる根拠も書かれていません。

 記事の内容も、事実関係もどうでもよくて、母親を誹謗中傷することを目的としたコメントにしか見えないんですが。真光元神社の信者なんですかね。

匿名 さんのコメント...

確かに虐待とは違ったかもしれません。失礼致しました。
どんなパワーか知らないけど、そんな簡単に重い病気が治るって考えるほうが変だと思う。そんなのがちまたにあったらみんなが健康元気で病気知らずになれるよ。
病気は治すのに時間がかかるでしょう。普通風邪ひいても何日かかかるし。そう考えたら常識的に信じる神経が変。
どんな病気でも瞬間的には治らないの。重い病気なら少しづつ良くなってくれたらと思わないかな。
欲を出すからそういうことになったのだと思う。
インシュリンを持たないことも非常識な考えがそうさせてしまったのでしょう。
ご主人が良き相談者になってくれなかったのかな。残念だね。
一日一日少しづつ良くなってくれたら・・・。という気持ちがあればよかったのにね。
お葬式お世話になったのも嫌なところには頼まないだろうから、何で訴える気になったのかな。
目的はどうしたかったのかな。
インシュリン持っていってたら死ななかったかもでしょ。
女の子叫んだはずだよ、注射って。そんな時お母さんそばにいたとしたら何をしてあげただろう。ごめんなさいないの。なんて言えないよ。かわいそう。

藤倉善郎 さんのコメント...

> どんなパワーか知らないけど、そんな簡単に重い病気が治るって考えるほうが変だと思う。

 第三者からは変に思えるかもしれませんが、どうにも解決できない苦悩を抱えている人の心理状態と、万能であるかのように思わせる権威づけと共に「それを解決できますよ」と言いよるカルト団体とが合わさると、そういうことも起こってしまいますね。

 これも、理解するよりまず想像してほしいんです。自分の子どもがなかなか治らない病気で苦しんでいる。親子で一緒に、なんとか耐えている。そこに「治せるよ」という人物や団体が現れるわけです。しかも今回の場合、子どももインスリン注射をせずに頑張ってみるという意思を持っていましたようです。親が無理やり医療拒否をしたのではありません。

 こういうときの親子の心理状態は、同じ思いをしていない第三者には理解しにくいと思います。ぼく自身、「理解している」なんて言えません。かろうじて想像できるだけです。

 でもはっきりしていることは、親子が勝手に信じ込んだのではなく、信じ込ませた人々がいた、ということです。第三者がいくら親の判断を誤っていると思ったとしても、悩みを抱えた人に誤った信念を植えつける人々の方がはるかに悪質で有害です。悩みを抱えた人に対してそういう関わり方をする団体であれば、なおのこと悪質です。

 だから母親の判断ばかり非難するのは無意味です。親子をそういう状態に追い込んだ団体の問題にも目を向けていただけないでしょうか。

匿名 さんのコメント...

素直に理解できました。
苦悩を抱えたお母さんがすがってしまったんですね。
正常な判断を欠いてしまったんでしょう。
信じ込ませたとしても最後はお母さんの判断の末このような事件に発展してしまったんだと思います。
最悪な結果となってしまって悔やまれてますでしょう。
洗脳的な部分もあったのかどうかは判りませんが
医者にも相談してから出かけられたらこのようなことには
ならなかったのではないでしょうか?
人間は弱く判断も誤ります。
何かにつけこむやりかたは悪質な洗脳ということでしょうか?

匿名 さんのコメント...

このお母さん可哀想だが、
だいたい人間が神様になれるはずがない!
インチキに騙されたんだな。
カルト宗教は、神だとか霊だとか見えないものに価値と恐怖
を植えつけて洗脳させる。オームと一緒。
不安な人たちにつけこんで酷いと思うが、
正常な判断を導いてくれる人が居なかったのが残念。

近頃活発に動いているね、真光元教団