神世界事件：吉田明枝（杉本明枝）初公判

　有限会社「神世界」（山梨県甲斐市）の関連企業である「Ｅ２」（イースクエア）の代表者である、吉田（旧姓・杉本）明枝被告人（48）の公判が、7月14日、横浜地方裁判所にて行われました。
　傍聴券発行が行われる1階の中央待合ロビーには、120人の傍聴希望者が並んでいました。この事件に関する関心の高さが伺えます。
　吉田明枝被告人は、2名の警察官に付き添われて法廷に入ってきました。ピンクの服で、眼鏡を掛けた、年相応の女性といった感じです。人定質問が行われ、杉本から吉田に改姓していたことが判明しました。

微に入り細に入りの、気合の入った起訴状
　そして、公訴事実が読み上げられました。起訴状3通分がまとめて読み上げられるわけですが、事実を微に入り細に入り述べており、情報量が生半可ではなく多かったため、全部メモするのは不可能でした。これから書くことは公訴事実の一部にすぎませんが、どのようなやり方で巨額のお金を奪っていったのかが、これを読めばご理解頂けるのではと思っております。

　一人目の被害者はＴさん。視力に問題があり、悩んでいた彼女は、吉田明枝被告人の心霊鑑定を受けます。
　「子狐が取り憑いているのが視力低下の原因」だと言った吉田明枝被告人は、狐の霊を供養すると称して、100万円を騙し取りました。
　その後、魂の階層を上げると称して150万円、狐の霊を供養すると称して200万円、腎臓から人の念を取り除くと称して100万円、魂のレベルを上げなければ人の念が憑くと称して100万円と、様々な理由をつけて金を騙し取っていったのです。

　二人目の被害者はＹさん。子宮内膜症に悩んでいた彼女は、吉田明枝被告人に「原因は先祖の霊」「小さい蛇の霊が取り憑いている」「魂のレベルが低い」と言って祈願を受けさせられ、50万円を騙し取られました。

　三人目の被害者はＨさん。経営している有限会社H商店の業績不振に悩んでいたHさんは、「会社がある場所は、刑場であった」「先祖も刑場で働いていた」ことが業績不振の原因であると吉田明枝被告人に言われ、霊を霊界に送る、家と会社のお清めが必要だということで、お清め及び祈願の名目で490万円を騙し取られました。

　起訴状の中には、A4一枚程度の内容のものもありますが、吉田明枝被告人を起訴しようとした検事の意気込みが伺える内容でした。

２０分にもわたる求釈明
　その後、一人の弁護人が起訴状記載の公訴事実に対して、
　①有限会社Ｅ２が宗教組織か否か
　②各被害者は信者か否か
　③共謀した安田みか「ら」とは誰のことを指しているのか
　④起訴状記載の共謀は事前共謀か現場共謀か、共謀の日時、場所、内容はどのようなものであったのか
　⑤欺もう文言は誰の発言か
　⑥悩みの原因を的確に特定して、解決する能力とは医学的な能力を言っているのか、宗教的能力を言っているのか
　⑦供養とはどのような行為なのか
　⑧供養をしなかったことを問題にしているのか、その値段が不適正だったことを問題にしているのか
　などといった釈明を、およそ２０分にわたり求めましたが、これを受けた裁判長は、あっさり、その必要はない、として、検察官に対し釈明を求めませんでした。

宗教であるから、詐欺罪には当たらない？
「被告人、前へ」
　そして、被告人の権利を裁判官から告知された吉田明枝被告人が起訴状に対する意見を述べました。
メモを読みながらですが、趣旨は大体以下の通りです。
　・詐欺をしたことはない
　・神様の声を聞いて伝えたに過ぎない
　・（被害者も私も含めて）みな信者
　・治癒する能力はないし、あるように装ったことはない
　・捜査に協力してきたのに、逮捕、起訴されたのは心外

　それに続いて、弁護人の主張です。
　基本的には「Ｅ２は宗教組織であり、被告人の行為は信仰を共有する信者同士の間の行為である。よって、詐欺罪には当たらず、無罪である」「被告人が能力があると主張したことはないし、周りもそのように見ていない」というものです。
　まあ、信仰から行ったことであり、騙したのではないという理屈なのでしょう。私個人としては「ふざけんな！」という思いですが、普段から宗教組織として振る舞い、宗教組織であることを隠さずにやってきたのであれば、理屈としてはありなのかもしれません。

金を騙し取る巧妙な手口
　そして、検察側の冒頭陳述です。
　まずは、被告人の経歴について述べ始めました。高校中退後、エステサロンなどで働いており、神世界と契約したとのこと。
　次に、Ｅ２を中心とする活動について述べ始めました。心霊鑑定、玉串料などで金を取っていることや、売上増加を至上命題としていること、心霊鑑定で問題を「霊的な問題」だと言い、ご祈願などで金を取っていること、「宗教」ではなく「会社」であり、スピリチュアルに興味がありそうな人を勧誘していることなどが述べられました。

　そして、被害者三人がどのようにして詐欺に遭ったのかが述べられました。全部メモすることはできませんでしたので、一部、要点のみを記すこととします。

　Ｔさんのケースでは、街頭で声を掛けられたのがきっかけでした。「アトピーがヒーリングで治った」と言われ、青山のサロンに誘われて、ヒーリングを受けました。
　Ｔさんは、一回では特に変化はないと感じましたが、「何度も受けると良い（効果がある）」と言われて、サロンに通うようになりました。
　ヒーリングの際には「何か良いことありましたか？」と声を掛けられ、アトピーのかゆみなどについて「ヒーリングによる毒素排泄の効果」だと言われて、Ｔさんはそれを信じるようになり、自分の視力の問題を打ち明けたのです。
　視力の問題について「霊的なものが原因」と言われ、「100万円でも200万円でも、お玉串は多ければ多いほど効果が早い」と言われて、Ｔさんは100万円を払いました。吉田明枝被告人は、100万円で祝詞を読み上げたとのことです。
　それからも、色々な名目で金を支払わされたのですが、信じていたのに効果はありませんでした。しかし、「繰り返しご祈願を受けることが大事」と言われ、通わなければ悪くなると思い込み、Ｔさんはサロンに通い続けました。
　しかし、通わなくなっても症状は悪化せず、友人に「サロンに騙されている」と指摘され、Ｔさんは騙されていることに気づきました。
　その後、Ｔさんは手術を受け、症状はなくなりました。

　Ｙさんの場合、病院で子宮摘出手術を受けるか否かを決めるよう言われたことを、Ｅ２に伝えたところ、「手術を受けなくても大丈夫」だと言われ、ご祈願を受けるよう勧められました。
　ご祈願を受けるだけのお金を持っていなかったＹさんは、借金してご祈願を受けました。
　しかし、効果は2ヶ月経っても出ず、Ｙさんが家族に話したところ、自分が騙されていたことに気づきました。
　その後、Ｙさんは手術を受けて、問題は解決したとのことです。

　Ｈさんの場合、Ｅ２に出会ったとき、エントリーシートのようなものに、現在の状況について記入したところ、後に吉田明枝被告人と対面した時にＨさんの現況について話されて、吉田明枝被告人に「特別な能力がある」と信じてしまい、色紙を勧められ、買わされてしまいました。
　ご祈願を受けた後、Ｈさんの所有しているテナントが決まり、直後に会社の業績が向上したため、Ｈさんは更に信仰を深めました。
　しかし、会社の業績向上は一時的なもので、すぐに悪化してしまいました。そして、Ｈさんはネットの情報を見て、騙されていたことに気づきました。

今までは「宗教じゃない」と言ってきたのに？
　これに対して弁護人の冒頭陳述です。
　Ｅ２については、Ｅ２が宗教組織であり神世界実現のための活動をしていたこと、最盛期には400人の信者がいたということ、太陽神を崇拝していたことなどを述べ、宗教組織であるという点を主張していました。
　吉田明枝被告人の信仰の形成の経緯についても、弁護人は詳しく話していました。これについても、全部メモを取ることはできなかったため、一部、要点だけ記すこととします。
　吉田明枝被告人は長い間、原因不明の高熱に悩まされ、墓探し、先祖探しをしてきたのですが、それが終わったとき、長い間苦しんでいた原因不明の高熱が治ったと、弁護人が述べていました。
　神世界との関係については、中村という男に神世界に勧誘されたのがきっかけで始まったとのことです。中村から神世界の教典「神書」を渡された吉田明枝被告人は、神世界のある山梨へ行き、神世界の信者になりました。
　その後、吉田明枝被告人は神世界の支部として、有限会社Ｅ２を設立しました。
　弁護人はあらためて、被害者も神世界の信者であり、「被害者が懇願して心霊鑑定を受けた」「みんなで祈っていた」と主張しました。

　とにかく、宗教組織であるという点を、弁護側は強調していました。
　訴訟戦術としては、それもありでしょう。
　しかし、神世界は今まで、「宗教ではない」と主張してきたのです。
　明らかに矛盾しています。

　次回の期日は未定ですが、この事件は、当紙が報道する価値がある事件だと確信しました。
　このような被害者が今後も出続けるのを、止めねばなりません。