幸福の科学信者が“成人式ジャック” 壇上でエル・カンターレの宣伝＝小田原市

無観客でリモート開催された小田原市の成人式（YouTubeより）

　神奈川県小田原市が1月10日にオンラインで開催した成人式で、スピーチに立った新成人の男性が「エル・カンターレ」「ウィズ・セイビア」などと特定の宗教団体の至高神の名やキャッチコピーを口走り、宗教宣伝を行う一幕があった。市の担当者は本紙の取材に対して、「事前の原稿確認やリハーサルの内容と全く違う、完全アドリブだった。式典の運営の妨げとなる信義則違反であり受け入れられない」としている。

（記事中に動画あり）

　小田原市では今年、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、成人式「はたちの同窓会」を小田原市民会館大で無観客で開催しYouTubeを利用してオンラインで配信した。

　冒頭、守屋輝彦市長が挨拶した。

「本来であれば、この市民会にて新成人の皆様にお集まりいただき、晴れやかに成人式を迎える予定でございましたが、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発出されたことを踏まえて、オンラインでの配信という形になりました。誰もが楽しみにしていたこの成人式でございます。私としても、このような事態に至ったことは、本当に悩みに悩んだ末の苦渋の決断でした。そして新成人自らの手で長い時間かけて、何とか思い出に残るものにしようという思いで準備してこられた運営委員の皆様、本当に残念な気持ちがあると思います。それでもこうしてオンラインでできるということに気持ちを切り替えて、また新たな形の成人式の模索をしていく、そんな時代なのかと受け止めております」

　何とか開催したいという思いとの間で苦慮しつつのリモート開催だったことがうかがえる。市では新成人から成人式運営委員を公募し、企画や当日の司会等の運営も新成人自らの手で行う形をとった。市長の「準備してこられた運営委員」とは、これを指している。成人式当日も4人の新成人が壇上で司会進行を行った。

　「新成人の抱負」のスピーチに立った4人も同様に公募。女装で登場した男性が「自分の“好き”を存分に発信していこうと思っています」「女性者の袴を着た男性がこの成人式で抱負を述べることができるくらい、“普通”は案外変わりやすい」と語ったり、小さい頃から病気があり多くの人に支えられてきたと語る女性がいたり。終止落ち着いた雰囲気の式典ながら、多様性を目指した自由で柔軟な企画意図が見て取れた。

　市長は挨拶で「無理だろうとか、難しいだろうとか、そう思うことに対してもどんどんチャレンジしていっていただきたい」とも語った。しかし、この言葉の趣旨とはおそらく違う方向でチャレンジしてしまったのが、「新成人の抱負」のスピーチで最初に登壇した、ある宗教団体の信者男性だ。

「医学的には、恐怖心を持っている人ほど免疫力が下がり（コロナに）感染しやすくなると言われています。逆に、明るい心を持って生きている人は免疫力が上がり、感染しにくくなると言われています。コロナウイルスの予防には手洗い、うがい、マスクや消毒、三密を避けるなどと単純なことが言われていますが、明るい心を持ち続けることこそ大事な方法なのではないかと思います」

　初っ端から妙な空気だ。

「自分の思い通りにならないことを不満に思うより、いままで与えられてきた物を一つ一つ思い出していくことで、感謝の気持ちが芽生えて、いまこの世に生きていることが奇跡のように感じられると思います。自分はポジティブに生きていくために、このようなことを意識し続けました。その結果、中学3年のときからいままで一度も学校を休むことなく、毎日健康に過ごすことができています」

「自分は高校では栃木県の、大学では千葉県の宗教系の大学に通っていて、そこでエル・カンターレという神の教えを学んでいます。去年、コロナの影響で世間の学校ではリモート授業になったり休校になったりしたそうですが、自分の学校では1年間普通に授業を受けたりサークル活動をしたり、また入学式を行ったり文化祭を行ったりすることができました。しかも、感染者は1人も出ていません。さらに、コロナウイルスを怖がっている人は殆どいません。それはなぜかというと、エル・カンターレを信じ、その教えを学ぶことによって、私達はコロナウイルスに勝つための最強の方法だと言われているからです。神様とかあの世とか、目に見えないものは信じないという人も多いと思いますが、ウイルスも目に見えない存在であり、人々に恐怖を脅かしています。それに対して神様は私達に確実に希望を与えてくださっています」

　エル・カンターレが出てきてしまった。

「成人式の場でこんな宗教的なこと言っちゃっていいのかと思うのかもしれませんが、これは誰かに頼まれてやっているのではなく、自分の意志でここに立って話をしています」

　問題のある行為をしている自覚があった上でのことのようだ。

「これからもコロナウイルスの被害は拡大し続けます。今年、世界の感染者数は5億人を超えるとも言われています。また、ワクチンが作られていますが、ワクチンが完成するのは4、5年先とも言われています。また、コロナウイルスだけでなく、現在の日本では地震や台風、大雨など天変地異が数多く起きています。そんな危機の時代だからこそウィズ・セイビア！　救世主と共に生きたいということ。現在の科学では防げない災害があるからこそ、神に祈る選択肢もあるということを知っていただきたいと思って、お話しています」

　男性は約6分にわたって、「エル・カンターレ」の教えの素晴らしさを語った。随所に、幸福の科学の教義や「エル・カンターレ」が講演等で語ってきた内容が散りばめられていた。自分自身の話は冒頭の自己紹介部分以外はほとんどなかった。

ウィズ・セイビア！

　エル・カンターレとは、幸福の科学という宗教団体の教祖・大川隆法総裁のこと。「ウィズ・セイビア（救世主とともに）」とは、昨年から幸福の科学が打ち出しているキャッチコピーで、昨年末の「エル・カンターレ祭」における大川総裁の講演タイトルだ。同タイトルの書籍や歌も幸福の科学から発売されている。言うまでもなく、幸福の科学における救世主とは、エル・カンターレである大川総裁である。

HSUは宗教系だが大学ではない

　このことから、男性が通っていたという栃木県の高校は「幸福の科学学園那須校」、「千葉県の宗教系の大学」とは幸福の科学の私塾「ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ」（HSU）を指していると思われる。

　ただしHSUは大学ではない。2014年に大学として認可を申請していたものの文科省から不認可とされ、また審査過程で関係者が文科省職員を脅すなどしたとされ5年間は認可しないとのペナルティを課された。2019年に再申請したが、昨年、認可が難しいと判断し自ら申請を取り下げている。HSUは大学はおろか各種学校等の認可もない。学校法人ではなく宗教法人が運営する、信者養成施設にすぎない。

　なお、男性は新型コロナウイルスに関連して「ワクチンが完成するのは4、5年先」と語っているが、ワクチンはすでに完成し国によっては接種が始まっている。また男性はHSUについて「感染者は1人も出ていません」と語っているが、本紙既報の通り、幸福の科学では信者や職員（出家信者）に数十名の感染者が出ている。

　小田原市青少年課の担当者は本紙の取材に対して、こうコメントした。

「あのスピーチ内容は、事前の原稿確認や前日のリハーサルとは違うもので、完全アドリブでした。当日になって無断で差し替えるのは信義則違反であり、受け入れられない。リハーサルで準備していた司会者の受けこたえ等の段取りも変わってしまう。式の運営の妨げになる行為です。内容が宗教的であるかどうかに関わらず、市としては受け入れられない」

　しかしライブ配信後も市がYouTubeで公開している成人式の動画では、問題の箇所はカットされずに現在も配信されている。

「本人への注意や映像の扱いなど、対応については検討中です」（市の担当者）

　市主催の式典で特定の宗教団体の宣伝が行われたことは政教分離原則にも抵触しかねないが、この点について担当者は「コメントは差し控える」とした。

　Twitter等では、幸福の科学信者とおぼしきアカウントによる「素晴らしい」などといった投稿も見られ、一部信者の間で男性の行為が称賛されている。幸福実現党新潟県本部副代表・おごせ寛明氏もTwitterで「素晴らしい」と称賛し、小田原市による成人式動画へのリンクを投稿している。

令和3年小田原市成人式「はたちの同窓会」 https://t.co/X1JCCtk4Xe @YouTubeより
23分30秒～30分10秒❗️
素晴らしい‼️

— おごせ寛明 (@rebound) January 12, 2021

　幸福の科学については2003年に、愛知県の保護観察官名義で県内の保護司1000人前後に教団の書籍を送りつけられ、保護司らから苦情が出る騒ぎがあった。また2014年には神奈川県座間市内の元中学校校長が卒業生約500人に教団の書籍等を送りつけた。卒業生名簿を流用したもので、保護者からの苦情を受けた市教育委員会が元校長に名簿を返却させた。

　今回の問題について、幸福の科学の一般公開施設に取材に入って建造物侵入罪に問われ公判中の藤倉善郎被告が本紙記者の面会に応じた。

「幸福の科学では以前から、信者が地位を利用して公私混同の宗教勧誘を行う行為が散見される。2003年の愛知県の保護司のケースでは、教団は“公務員の信教の自由”を盾に正当化。この問題を報じた朝日新聞社に対して、当時の社長の霊を呼び出したと称する霊言で社長を中傷した。2014年の座間市のケースでは、問題を報じたJ-CASTニュースに対して教団は、やはり信教の自由を口にして“座間市教育委員会が左翼史観のまま”などとコメントしている。全く反省していない。ましてや今回は幸福の科学学園卒でHSU在籍中という純粋培養の、おそらく2世信者による行為だ。これを教団関係者が称賛している以上、幼少から信仰のために社会のルールを踏みにじる教団の価値観を刷り込まれた真面目で情熱的な若い信者たちが今後、同様の“成人式ジャック”に走りかねない。市は明確に“行政の行事での特定宗教の宣伝はだめだ”と表明する必要があるのではないか」

　ただでさえ、新型コロナの影響を受けて苦慮しながらリモート開催にこぎつけた市や運営委員の新成人たちの努力をぶち壊し、リモート参加した全ての新成人に対して式典を台無しにした今回の“成人式ジャック”。加えてそれが市の主催行事での特定宗教の宣伝であるばかりか、大学ではないものを大学と呼び信仰で感染を防げるかのように語るなど、事実に反する内容も含まれていた。様々な災害を引き合いに出し信仰に向かわせようとする、脅迫的な伝道も含まれていた。幸福の科学の勧誘の危うさが全て詰まった福袋のようなスピーチと言える。

　今回の問題について幸福の科学グループ広報局は、本紙の取材に対し以下のコメントを寄せた。

「藤倉さんからの取材はお断りしております」

注：記事中の動画はYouTubeより。信者男性が将来、幸福の科学を脱会した場合に今回の件が黒歴史となる可能性に配慮し、本紙の判断で加工してあります。

追記：2021年1月13日午後、小田原市が公開していたYouTube動画は削除された。現在、問題のスピーチをカットしたバージョンが公開されている。