受講申込者に送られてくるランドマーク社の書面。クーリングオフに関する説明はない |
特定商取引法では、業者側に対して、クーリングオフに関する説明の書面を消費者に交付することを義務付けているが、ランドマーク社は交付していなかった。専門家は「毅然と請求すればすんなり返金してくる可能性がある。高額な契約を結んでしまい後悔している人は、試してみるといいかもしれない」と話している。
この問題は、エホバの証人の元2世信者であるA弁護士がランドマーク社の自己啓発セミナーにのめり込み、同じエホバの元信者を含む知人を勧誘して受講させているというもの。そのうちの1人であるエホバの元信者Bさんが最近、別の弁護士に相談し、書面でランドマーク社に契約解除を通知し返金を請求していた。
ランドマーク社は、1971年に「est(Erhard Seminars Training)」として設立された、有名な老舗セミナー会社。80年代に「ランドマーク・フォーラム」の社名で日本法人を設立し、後に「ランドマークエデュケーション」、「ランドマークワールドワイド」と名称を変更した。
Bさんは、今年の夏頃、A弁護士から電話でランドマーク社のセミナーを受講するよう勧誘された。電話では、こういったことを言われたという。
「俺は企業セミナーの講師もしたことがあるが、その俺が見てもランドマークは本物」
「NASAもランドマークの講座を採用していた」
「(自分と)一緒に受講した受講生が、パリオリンピックで金メダルを獲得できた」
BさんはA弁護士と旧知であることや弁護士であることから信用し、受講を申し込んで17万円あまりを支払ったという。
しかし実際に受講しても、A弁護士から説明されたような効果が実感できず、騙されたという気持ちが強まったという。旧知であり弁護士でもあるA弁護士と敵対することを恐れ、返金を求めることに躊躇もあったというが、別の弁護士に相談。ランドマーク社が契約の際に「クーリングオフ」(契約解除)について説明する書面を交付していなかったことから、書面で同社にクーリングオフを通告し、全額が返金された。
クーリングオフは、訪問販売や電話勧誘販売などについて、契約から一定期間内であれば消費者が無条件で契約を解除できる制度。特定商取引法では、業者側に対して、クーリングオフに関する説明の書面を消費者に交付することを義務付けている。
電話勧誘販売の場合、クーリングオフ可能な期間は8日間。ただし、勧誘された日や契約を交わした日ではなく、クーリングオフについての説明書面を受け取った日から起算される。ランドマーク社がこの書面をBさんに交付していなかったことから、Bさんは、「クーリングオフ期間が起算されていない(現在もクーリングオフ可能である)」として、ランドマーク社にクーリングオフを通告した。
その直後に、A弁護士からBさんを非難するLINEメッセージや着信があったが、Bさんは自分が依頼した弁護士の助言を受けて、対応せず。ほどなく、ランドマーク社から全額が返金された。
A弁護士による勧誘が、どの程度の広まっているかは不明。Bさんは、「自分以外にも少なくとも1人は、勧誘されたエホバ2世がいる。エホバとは関係ないが、同期の弁護士も勧誘している」と語る。
解説:自己啓発セミナー問題に詳しいジャーナリストの藤倉善郎さん
ランドマークを含め老舗の自己啓発セミナーは、様々な民間の心理療法や、マルチ商法でも使われるような「成功哲学」等々のパッチワークで、受講生の思考や感情を揺さぶるような内容。具体的なスキルを習得できるとか悩み事を解決してくれたりする趣旨のものではない。
一般的な講習会や研修とは全く違う分野なので、17万円という料金を一般的な「相場」で捉えると見誤る。またランドマークのセミナーを受講すると、セミナー中に次のコースに勧誘されるが、その受講料金は約29万円もする。
ランドマークについては、20年ほど前にもBさんと同じような相談を受けたことがある。この時もランドマークはクーリングオフ書面を受講生に交付しておらず、受講生が請求するとすんなり返金してきた。
自己啓発セミナー対策ガイド(アーカイブ):ランドマーク、元受講生に料金を返還
実質的に、契約を解除する方法がないかのように思わせておいて、文句をつけてくる人にはすんなりカネを返して黙らせる(文句をつけてこない客からカネを取れればよい)、という手口に見える。
法律を守らない悪徳商法の業者がすんなり返金に応じるとは思えないというのが、通常の感覚だろう。消費生活センターなどの相談員の中には、こうした一般論を元に「返金は難しい」などと知ったかぶって、相談者を泣き寝入りさせてしまう人もいる。しかしランドマークについては、今回のように毅然と請求すればすんなり返金してくる可能性がある。高額な契約を結んでしまい後悔している人は、受講の前でも後でも、返金請求を試してみるといいかもしれない。
自己啓発セミナーは、受講生の人間関係に乗じて、知人や家族を勧誘させる。勧誘してくる受講生(紹介者)が口先では「効果がなければ返金する」などと言うこともあるが、契約解除や返金を請求すると、セミナー会社ではなく「紹介者」が人間関係に乗じて黙らせようとする。今回のA弁護士の反応がまさにそれだ。
しかし契約相手は、知人である「紹介者」ではなく、飽くまでもランドマーク社。弁護に相談して、しっかりした内容の書面でランドマーク社に返金を求め、「紹介者」が出しゃばるようなら「本人への直接の連絡はやめろ。代理人であるこちらに連絡してこい」と弁護士から通告してもらえばよい。弁護士費用はかかるが、裁判をするほどの費用ではなく(もちろん、正式な委任の前に確認を)、返金された場合、受講料の多くは手元に戻る。「二次被害」の防止と迅速な解決の可能性が高いという利点は大きい。
また、特定商取引法は、電話勧誘販売について、契約しない意思表示をした人に対して再度勧誘することを禁止している。勧誘をはっきり断っても勧誘電話をかけてくる行為は違法だということも、知っておくといいかもしれない。
1 コメント:
「自己啓発セミナーは、受講生の人間関係に乗じて、知人や家族を勧誘させる」って辺りは、ネズミ講やマルチ商法と同じ構造に見えますね。
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