熊本県西原村に“泰道”後継団体の関連NPOが進出？「大物政治家が村に圧力」地元住民の不安募る

NPO法人を使った進出疑惑が持たれている寳珠宗寳珠会HP

火の国”熊本県のシンボルとして多くの宗教団体の信仰の対象となってきた阿蘇山。その阿蘇山を望み、牧場や里山など長閑な風景が拡がる同県阿蘇郡の西原村に於いて、ある団体の進出による騒動が勃発している。

その団体の名はNPO法人・自然を守る会（以下／自然を守る会）。このNPO法人の背後に、寳珠宗寳珠会（宝珠宗宝珠会）なる宗教団体の存在があるのではと村を挙げて警戒しているのだ。

村の人が警戒するのにはワケがある。寳珠会は主に九州に於いて「手かざしのハンドパワーにより病気や障害が治る」などとして高額な入会金などを収奪し違法な活動をおこなったとの判決が出され1997年に解散した宗教団体・泰道の傘下・後継団体であるとされているからだ。

そして、この団体の進出に纏わる村有地の買収に際し、現職の国会議員や元国会議員から村に圧力が掛かったとの話も飛び出した。

筆者は寳珠会に対し、一連の事態への関わりについて問う質問書を送付し、回答を得た。

騒動の経緯を追った。


西原村を舞台にした一連の問題が発覚したのは昨年のことだ。村内の土地が広範囲に渡り、ある人物の出資により密かに買われていたことが判ったのだ。

西原村の土地を買い集めていたのは泰道の元会長で開祖の開（ひらき）俊久氏（69）だ。寳珠会では“本源／寳珠大聖人”と呼称されているという。開氏は、泰道及び寳珠会に於いて実質的な“教祖”的存在とされる人物で、開氏は自然を守る会の開発の裏付けとして20億円の残高がある預金通帳を見せたという。

西原村への進出は、開氏の購入した土地を自然を守る会が開発するという形で行なわれている。昨年1月、自然を守る会は広大な村有地の買収を村に申請、事態が発覚した。

自然を守る会の代表者や理事・役員は泰道／寳珠会の関係者で構成され、開氏に最初に土地を売った泉田洋一村議（当時）も理事・役員に名を連ねている。

村議会関係者が明かす。

「開氏が西原村の土地を購入した以降に自然を守る会が設立されていることや、代表者や役員が泰道／寳珠会の関係者で構成されていることなどから、自然を守る会は建前上の存在だと認識されている」

関係者が遡って調べたところ、平成23年10月から泉田村議（当時）の所有する土地を含め西原村灰床地区の土地約12ヘクタールの所有権が開氏に移転登記されており、開氏は着々と同地区 の所有権を手中に収めてきたことが判ったという。同地区所在の泉田氏の所有する家屋も平成24年8月に開氏に所有権が移っており、その家屋がやはり寳珠会関連の宝珠製作所や自然を守る会の事務所として使われているのだ。

事態の推移を見ていた西原村の関係者は指摘する。「開発申請時に設立されていなかった自然を守る会が開発申請者となっていた。自然を守る会が宗教法人のダミーであることは明らかだ。開発はNPO法人にさせ、後から宗教法人が利用するという既成事実化を狙ったのではないか」

村議会もこの案件を重視、平成25年12月13日には西原村灰床地区の開発申請人である山崎三男氏を参考人招致している。山崎氏は NPO法人・自然を守る会の理事長であり、過去に泰道の副会長や筆頭理事を務めるなどしており、泰道に対する集団訴訟の対象者の一人でもある。山崎氏はその後も村議会に参考人招致されたが、その際、山崎氏は「開俊久氏は『寳珠宗寳珠会』だが、あくまでも今回の件に関しては寳珠宗寳珠会とは全く関係ない」と述べ、自然を守る会と当該宗教法人との関係を否定している。

自然を守る会は昨年1月、350ヘクタールもの広大な村有地（公営牧場跡地）の買収を村に申請した。村議会関係者は明かす。

「自然を守る会からの買収申し入れの際、県外の現職及び元職の大物国会議員から村に対し相当の圧力が掛かったと聞いた」

灰床地区の開発に関して住民は憤る。「当初山林の伐採について、自然を守る会は12ヘクタールのうち3.2ヘクタールを間伐すると申請していたのにもかかわらず、実際には皆伐（全伐）されてしまい、降雨により流出土砂の被害が出た」　
既に実害まで発生しているのだ。

開発に反対する住民は憤る。

「灰床地区北側には再春館製薬がソーラーパネルを設置するという話がある。自然を守る会はその話に便乗して『遊歩道を造る』という名目で開発してきた」

「寳珠会がNPO法人を前面に出して実際には、なし崩しに教団施設を造り村に進出してくるのでないか」との懸念から、 一連の開発に危惧感を抱いた西原村の住民は500人規模の住民集会を定期的に開いてきた。集会では対応策などを協議、今年2月16日には有志による『西原村を守る会』を結成し、情報発信を続けている。同会のスローガンは『住民パワーで守ろう！西原村を！NPO法人「自然を守る会」・宝珠宗宝珠会の本源 （開俊久氏）進出阻止！』だ。

西原村を守る会と、進出を強行しようとする自然を守る会との間には度々摩擦が生じている。

西原村を守る会の関係者は語る。

「寳珠会は反対する住民に対し、名誉毀損訴訟などを起こして動きを封じ込めようとしている。メディアはこの問題をもっと報じてほしい」

もっとも、地元の熊本日日新聞や朝日新聞の地方紙面では、村議会での動きなど、この問題に関する事柄を適宜報じてはいる。

村議会で不信任決議が可決され、今年2月28日付けで村議を辞任（本人曰く「職を辞した理由は体調不良」）した泉田氏に話を聞いたところ、泉田元村議は開発に関し「集落の人は喜んでいた」と弁明、反対住民に対しては憤りの感情を露わにした。

「反対してるのは皆、共産党」「集落のために良かれと思ってやったのに」

最初に開氏に村内灰床地区の土地を売った泉田氏は自身が寳珠会の信者であることを否定した上で「自然を守る会は解散し村の開発からも手を引いた」と話した。しかしながら、自然を守る会の登記を確認したところ、解散登記もされておらず、その準備段階で行われるはずの『解散及び清算人就任登記』すらされていないことから、泉田氏の発言には疑問が残る。

西原村に於ける開氏の開発や自然を守る会との関係について寳珠会に質問書を送付した。後日寳珠会の代理人弁護士米山隆一氏から回答があった。米山氏は日本維新の会から昨年7月、参院選に立候補（落選）した政治家でもある。

以下にその質問とその回答を記す。

【質問書 2013年3月20日】質問書

質問①：開俊久氏の宝珠宗宝珠会法人での役職または地位を正式にお教え下さい。

→回答：当法人の役員につきましては、どなたでも登記で確認するとこが出来ます。最寄りの法務局にて、宗教法人寳珠宗寳珠会に『法人登記をご覧ください。

質問②：ＮＰＯ法人「自然を守る会」（以下単に「自然を守る会」と言います。）理事長山崎三男氏（以下「山崎氏」と言います。）は、貴法人の信者または（及び）関係者でしょうか。関係者である場合には、どのような役職または地位にありますか？

→寳珠会の回答：当法人は山崎氏個人の宗教的信念や宗教的立場について、コメントする立場にありません。

質問③：自然を守る会副理事長森加津代氏は、貴法人の信者または（及び）関係者でしょうか。関係者である場合には、どのような役職または地位にありますか？

→寳珠会の回答：①及び②と同様であり、当法人の役員につきましては登記をご確認ください。森氏個人の宗教的信念や宗教的立場について、当法人はコメントする立場にありません。

質問④：自然を守る会理事泉田洋一氏は、貴法人の信者または（及び）関係者でしょうか。関係者である場合には、どのような役職または地位にありますか？

→寳珠会の回答：①及び②と同様であり、当法人の役員につきましては登記をご確認ください。泉田氏個人の宗教的信念や宗教的立場について、当法人はコメントする立場にありません。

質問⑤：自然を守る会監事篠原隆氏は、貴法人の信者または（及び）関係者でしょうか。関係者である場合には、どのような役職または地位にありますか？

→寳珠会の回答：①及び②と同様であり、当法人の役員につきましては登記をご確認ください。篠原氏個人の宗教的信念や宗教的立場について、当法人はコメントする立場にありません。

質問⑥：株式会社宝珠製作所代表取締役の浦幸二氏は、貴法人の信者または（及び）関係者でしょうか。関係者である場合には、どのような役職または地位にありますか？

→寳珠会の回答：①及び②と同様であり、当法人の役員につきましては登記をご確認ください。浦氏個人の宗教的信念や宗教的立場について、当法人はコメントする立場にありません。

質問⑦：株式会社宝珠製作所取締役の境美由紀氏は、貴法人の信者または（及び）関係者でしょうか。関係者である場合には、どのような役職または地位にありますか？

→寳珠会の回答：①及び②と同様であり、当法人の役員につきましては登記をご確認ください。境氏個人の宗教的信念や宗教的立場について、当法人はコメントする立場にありません。

質問⑧：貴法人は、自然を守る会の開発行為とどのような関係がありますか。自然を守る会、自然を守る会の役員及び開氏に対して、貴法人が西原村での開発のために金銭的な支援や人的支援をしたことがありますか？

→寳珠会の回答：当法人は、西原村にも、NPO法人　自然を守る会の活動について、コメントする立場にありません。

質問⑨：西原村の村民は、自然を守る会の開発が、実は宗教法人である貴法人が将来宗教活動を行う施設や信者が利用する施設を設置したり、宗教行事を行う場所として利用するためのものではないかと危惧している者が多いと聞きます。
このように自然を守る会の開発が、村民に不安を与え、西原村から反対の決議が出ていることについてどうお考えですか？
貴法人の開祖である開氏が推進している自然を守る会の開発が地元住民の反対を受けていることに関して、貴法人が開氏に対して、指導や申し入れをすべきとは考えませんか？

→寳珠会の回答：当法人は、当法人とは全く別の法人であるNPO法人　自然を守る会の活動について、コメントする立場にありません。

質問⑩：村民の不安を払拭するために、貴法人として、今後西原村に進出をする可能性はない、当地で自然を守る会所有ないし管理する施設を利用したり、貴法人の多数の信者が同地を訪れるようなことはないと断言できますか？

→寳珠会の回答：当法人は、当法人が関わらない仮定の話について、コメントする立場にありません。

質問⑪：自然を守る会または開氏は今も西原村の土地の買収を続けていますか？そして今後も同村の土地の買収を続けていくおつもりでしょうか？

→寳珠会の回答：当法人は、開氏個人の活動及び、当法人とは全く別の法人であるNPO法人　自然を守る会の活動について、コメントする立場にありません。

飽くまで、開氏個人と自然を守る会の活動であるとの主張だ。

回答を踏まえ一点、新たな質問を宝珠会に送付した。

【再質問書 2013年3月28日】

質問①：貴法人（宝珠宗宝珠会）は、NPO法人・自然を守る会やその開発とは「何ら関わりがありません」とのことですが、そうであるならば、貴法人がNPO法人・自然を守る会やその開発に関与していると疑われ、西原村の住民に不安を与えている点について貴法人のお考えをお示しください。

期日までに回答はなかった。

自然を守る会にも再三連絡したが、電話が繋がることは稀で、FAXすら送信できない状態が続いており、事務所としての体を成していないと思われる。

西原村を守る会のメンバーは話す。

「西原村の殆どの世帯が開発に反対している。隣の町では泰道と関連のあるアースハートの施設も建てられ、アースハートのシンボルマークも確認できた。依然として問題の法人によ る開発の疑惑はある。寳珠会の言うことは信用できない。寳珠会が進出して来るのではないかと懸念している周辺自治体や議員と連携して反対運動を継続してい きたい」

西原村の住民から相談を受けている弁護士は話す。

「自然を守る会による村有地の買収申請は結局認可されず、今回の西原村の開発の問題については勝負あったという感じ。当該団体は西原村を諦めて周りの自治体の土地を狙っているようだ。湧水が湧き出ている土地を取得しているという話もある。周辺自治体の住民の一部は危機感を抱いていると聞いている 。開氏たちはせっかく手に入れた土地をこのままにして引き下がりたくないと思っているだろう。なんとかして利用したいと思っている筈。今後悪用させないようにしていかないといけない。宗教団体と云うのは阿蘇山や富士山と云う神秘的なものを認めている。寳珠会もアースハートも両方とも阿蘇山に進出しようとしている。更に問題は複雑になっていくだろう」

同じく相談を受けている別の弁護士も問題の複雑化を指摘する。

「この問題は収束には向かっておらず、むしろ拡大傾向に ある。西原村の開発は入り口に過ぎない。西原村の開発は事実上頓挫している現状にあるが、近隣の市町村の土地がどの程度買収されているかはよく判っていない。今後は西原村だけ の問題では済まなくなるかもしれない」

反対住民は語る。

「西原村はオウム真理教の問題があった波野村にも近いところに位置しています。当時の記憶が生々しく残っており西原村の人は『あんなことがあっては大変』と危惧しています」