統一教会の女性連合幹部が正体隠して中高生に“純潔”性教育（前編）

一般の高校生に純潔教育を説く統一教会・女連幹部（筆者撮影）

統一教会の女性幹部が、正体を偽って一般の学校に入り込み、性教育の講師として中高生に統一教会流”純潔”教育を説いて回っていることが判った。

その講演内容は、エイズ患者の写真を見せて殊更に性感染症の恐怖を煽り、“純潔”を推奨したかと思えば、あげくの果てにはトンでもニセ科学話を生徒に刷り込むという呆れた代物だった。

筆者が確認できただけでも、この女性幹部を講師として招聘した学校の数は栃木・群馬・長野・山梨の公立校・私立校合わせて数十校に上る。

何故、霊感商法や偽装勧誘で社会問題となっている悪質な団体の幹部が一般の学校に講師として潜り込むことができたのか？

取材を進めてゆくと、統一教会系女性団体が組織的に構成員を使ってPTAや学校関係者に近付き、巧妙に教育現場へ介入していたのではないかとの疑惑が浮上した。

この女性幹部は実体のない“研究所”の所長として国会議員や県会議員らを呼んでシンポジウムを複数回に渡り開催していたことも判明。更に、この女性幹部を派遣講師として推薦し登録していた地方自治体まであった。

筆者はこの女性幹部が行なった“トンでも講演”を直接取材、教育現場に入り込み一般の生徒に統一教会流“純潔”性教育を刷り込もうとする狡猾な手口を追った。


◆悪質な反社会的カルト団体の幹部が“先生”として講演

統一教会と云えば、“先祖の因縁”トークなどで被害者を畏怖・困惑させ高額な印鑑や壺・水晶などを強引に売りつける霊感商法や、正体を隠して教団偽装施設へ勧誘し教化する違法伝道、そして桜田淳子ら有名人などが参加した“祝福”と呼ばれる合同結婚式などが大きな社会問題となってきた団体だ。

そんな合同結婚式“祝福”カップルから生まれた子どもは“祝福二世”と呼ばれ「原罪の無い神の子」として教団の手厚い“保護”の下、従順な信者にすべく育てられてゆく。恋愛を禁止されることは勿論、異性の友人を持つことすら厳しく咎められる程の“超”管理教育下に置かれる二世は、貞操を守り、童貞と処女という“清い”身体でマッチングされた相手と祝福を受ける“純潔教育”を徹底指導される。もし祝福を受ける前に異性と肉体関係を持ってしまうと「脱線」や「重大な逸脱」として「大罪を犯した」と誹りを受け、再教育施設へ送り込まれるのだ。この様な“脱線”した二世信者が強制受講させられる純潔教育修練会では 「自由恋愛やフリーセックスなどの堕落したカップルから生まれてくる子供には障害児や奇形児が多い」などと根拠のない悪質なデタラメが繰り返し吹き込まれるという。
従順な二世程、偏った認識を刷り込まれてゆくのだ。

そんな悪名高き教団の女性幹部であり、フロント組織・世界平和女性連合（女連／WFWP）の理事が、栃木・群馬及びその近県で中学校や高校に性教育講師として招聘され、一般の生徒に向けて、統一教会流純潔性教育の講義をしていたのだ。その数は筆者が確認できただけでも数十校に上る。後述するが、この講師本人は筆者に「数百校で講演した」と述べている。

統一教会幹部が正体を隠して行なった純潔性教育講演を紹介する複数の当該学校HP

◆実体のない研究所の所長を名乗り、国会議員とシンポジウムも

この統一教会女性講師の名は荒井敦子。荒井敦子は対外的な肩書きとして栃木県大田原市にあるとされる【家庭再建教育研究所】の“所長”を名乗っている。同研究所の“事務局”は一昨年までWFWP栃木支部が在る宇都宮市内に置かれていたが、一昨年からは荒井敦子の自宅が事務局となっているという。ところがこの家庭再建教育研究所、事務局とは名ばかりで実体がないと思われるのだ。

2012年に同研究所主催の教育シンポジウム＆パネルディスカッションが宇都宮市内で開催され、荒井敦子と共に上野路子参議院議員を筆頭として自民党の政治家が複数登壇した。2011年から始まった同シンポジウムの主催は当初WFWP栃木連合会だったが、主催者の名目が家庭再建教育研究所に替わってからも、連絡先はWFWP栃木の事務局長となっており、家庭再建教育研究所がWFWPと同一であることが窺える。3年続けてコーディネーターとしてシンポジウムを共催してきた七海朱美真岡市議会議員は筆者の取材に、荒井敦子やWFWPと統一教会との関係について「全く知らなかった。初めて聞いた」と答えている。

2011年のシンポジウムの主催者は「WFWP栃木」

2012年及び2013年のシンポジウムでは主催が「家庭再建教育研究所」に替わっている

統一教会系団体が主催するシンポジウムで講演する上野通子参議院議員（七海朱美の“はらはら”ぶろぐより）

2012年のシンポジウムに参加した阿部博美栃木県議会議員も、荒井敦子が統一教会関係者であることを「知らなかった」と話しており、シンポジウムに出席した経緯については「地元の知り合いの方から御案内があって」としており、その知り合いがWFWPのメンバーであるかどうかについては「詳しいことはよく判らない」「私は繋がりはない」と答えている。

WFWPが主催する女子留学生弁論大会でも審査員を務めていた七海朱美真岡市議は、WFWPとの接点について「子宮頸がんワクチンの勉強会からだった」と話した。今後の荒井敦子との付き合いについては「そういうもの（統一教会との関係）が見えたらが考えます」と付け加えた。

その他、千葉県の八千代市議会議員や神奈川県の大和市議会議員も同シンポジウムで登壇している。

子宮頸がんワクチン接種問題を足掛かりに政治家の取り込みなどの政界工作を進めているとされる統一教会、その一端が窺える。
議会で子宮頸がんワクチン接種問題について発言する地方議員には、WFWPや統一教会との関わりを指摘される議員が多い。七海市議は選挙支援などの関わりについては「一切ない」と否定したが、反社会的なカルト団体に付け込まれるというのは、市民を代表する代議士としては脇の甘い対応だったと云える。


◆夫も幹部、教会長

荒井敦子はWFWPの理事とWFWP栃木連合会の代表を兼任しており、WFWP栃木内部での呼称は“議長”だ。夫も関西や東海地方で統一教会地区教会の教会長を歴任する幹部信者で、もちろん合同結婚式で文鮮明教祖（故人）から1988年にマッチングされた6500双の“祝福”夫婦だ。

統一教会系団体の“純潔”イベントで講演する荒井敦子”議長”

◆WFWP（世界平和女性連合）とは？

全国霊感商法対策弁護士連絡会（全国弁連）によると、WFWPは文鮮明が「女性信者の獲得」「統一教会の資金獲得」「社会的影響力の拡大」のために信者に指示して組織させた統一教会の「隠れみの」的団体で、文鮮明の理念を拡大・実現するための団体であり、その理念の中に霊感商法を実行せざるを得ない「万物復帰」の教義が組み込まれているという。これはWFWPの総裁が教祖の妻で現在の統一教会の最高実力者である韓鶴子であることからも明らかである。全国弁連によると WFWPの会長は元統一教会会長で、WFWP事務局メンバーは全て統一教会の信者、運営も信者が行なっているという。更に、WFWPの講演会や留学生支援は表向きの活動であり、実情は統一教会の別動隊として正体隠し伝道や資金集めのターゲット獲得の窓口となっているとされ、現在も多くの女性が資産を奪われ、人生を狂わされている実態があると云われている。

◆講演した学校は自称100校、金銭を受け取って講演

そんなフロント組織の理事を務める荒井敦子は、2003年から『エイズ時代に生きる～自分を大切に』と題した講演活動を始めた。過去に講演した学校の数は荒井敦子本人によると100校、毎年定期的に講演を行なっている学校も約20校あるという。その殆どが市立・県立といった公立の学校であり、一部の私立高校の担当教諭を除き、荒井敦子が統一教会関係者であることを一切把握しておらず、荒井敦子を統一教会関係者と判った上で招へいしている当該私立高校に於いても生徒や保護者に、講師の背景を説明していない。自分の子供が統一教会関係者から偏った純潔性教育を受けていたとなったら保護者はどう思うのであろうか。
更に、荒井敦子は各学校から講演料・謝礼・交通費の名目で少なくない額の金銭も受け取っているのだ。

◆講演を聴いて“トンでも”内容に絶句

昨年、長野県内の私立高校に於いて行われた荒井敦子の性教育授業を聴く機会があった。
1年生の生徒全員を対象とする性教育授業に関し当該高校は、事前に生徒の保護者や地域住民にも聴講を呼び掛けていた。筆者も学校サイドの了解を取り長野へ赴き講演を聴いた。

長野県内の某高校で行われた荒井敦子による性教育授業

当該私立高校が荒井敦子を講師招聘するのは3度目だ。多目的室に集められた1年生220人の前に、荒井敦子はWFWPメンバーと思しき4人の婦人を引き連れて登場した。
生活指導の担当教諭から『講師の先生の紹介』として「家庭再建教育研究所・所長」「いろんな分野でご活躍なさっている先生」、『活躍内容』として「議会への働き かけ」「署名活動で連合会として活動」などとスライドで紹介を受け登壇した荒井敦子。

荒井敦子によるスライドを使った『エイズ時代に生きる～自分を大切に』の講演が始まった。

“ゲーム脳”や“水からの伝言”などのニセ科学を生徒に信じ込ませようとする荒井敦子

講演の内容はと云えば、パワーポイントを用い手元の原稿を読み上げるといったもので、インターネット上にUPされているものとほぼ同じだ。殊更にエイズの恐怖を煽って生徒に性行為や異性との交際への恐怖心を植え付けようとするものであり、その予防策・解決策として自己抑制教育＝純潔教育を提示し、そこに導き誘おうとするものであった。

しかしながら「認知症」をいまだに「痴呆症」と述べてしまうなど台本の更新がなされておらず、更には“物語り”であることが周知されている『水からの伝言』や根拠のない『ゲーム脳』の話が含まれるなど、いい加減な内容が多々見受けられた。挙句の果てには「知り合いのお母さんが実験した」として「『ありがとう』と書いた容器に入れたご飯は一週間経っても白く腐らないままだったが『バカ』『死ね』と書いた容器のご飯はすぐに黄色くなって腐った」などのトンでも話も織り込まれていた。

◆学校からは来賓扱い、WFWPメンバーと共に校長室で接待を受ける

早口の関西弁で捲し立てるように喋る荒井敦子。 そのためか授業時間を大幅に余らせてしまう。効果的なアドリブも思いつかないまま降壇した荒井敦子は、教室後方の保護者席に陣取っていたWFWP婦人4人と共に教室を後にした。その後は、校長室に通され接待を受けていたようだ。統一教会婦人グループが校長室でVIP待遇とは、道義的にも問題であろう。

こうして、数多くの社会問題を引き起こしてきた教団の幹部信者であり、且つそのフロント組織の理事が生徒に対して自身の立場を隠匿したまま講師をしていた実態が明らかとなった。 

◆保護者は統一教会関係者とは知らされず

同校の生活指導の教諭は、荒井敦子の講師招聘について昨年筆者にこう話していた。「家庭再建教育研究所は、お仲間というか友人の方々がボランティアで事務所を貸していたそうです。本校も宗教的な事とは関係なく、お仲間もそういった関係の方々ですが講師の選定には慎重です。ある方から紹介を受けて、山梨県内の商業高校で講演されているのをわざわざ聴きに行って『これはうちの性教育の仕上げにいいな』と個人的にお願いしました」

荒井敦子を統一教会関係者と知った上で招聘したこの高校は、私学だ。私学には、どんな外部講師を招き、生徒にどの様な教育を施すかについて、一定の裁量権が担保されている。しかしながら、同校のホームページの当該箇所の荒井敦子に関する記述内容に「統一教会」や「世界平和女性連合」との文言はなく、生徒や保護者に対して適切な情報が周知されていなかった。
同校に子供を通わせている保護者にしてみれば、自分の子供に統一教会関係者による純潔性教育を受けさせたいと思うであろうか。同校の予防型性教育に取り組む積極的な姿勢は評価されるべきだが、講師の選定に問題ありとの誹りは免れ得ないであろう。

今年になって同校の学校HPから昨年度の荒井敦子講演の記述が削除されていた。学校側に確認したところ「話の内容は素晴らしいが『統一教会関係者を呼ぶのはどうか』との声があり今年は招聘しない」とのことだった。


◆WFWPメンバーを使った人海戦術疑惑も

荒井敦子がこれだけ多くの学校で講演をしてきた背景には あるカラクリがある。
WFWP各支部の人員を使って各地の中学校・高校を回り「PTAの会合で荒井さんの話を聴いたのですが、とても良かったので、是非、こちらの学校で講師として招きませんか？」などと宣伝したり、PTA関係者と偽って荒井を推薦していたことが判っている。

荒井敦子を招聘した学校に講師選定の経緯を訊くと「〇〇という女性からの紹介」というパターンが複数校あった。

他には、保健所から推薦を受けたというケースや養護教諭からの推薦というパターンもあった。様々なルートで荒井敦子の売り込み作戦が進行していたのだ。

荒井敦子は他にも、公民館や各地の公的施設などで保護者や学校関係者などを対象に同じ講演を行なっている。



後編記事では、 荒井敦子のスライドと統一教会二世教育教材との同一性を追及、そして荒井敦子本人のインタビューも掲載する。



（ 文中敬称略）